Rayを釣りたくて III

フロリダ沖に降り注ぐ栄光の光の中で舞い踊るトビエイを釣り上げる事を望むブログ。スポーツナビ+閉鎖に伴ってIIIとなって引っ越しました。旧記事で画像がほしい記事があればコメントいただければ、気づき次第対応します。

今更ながらのLee Smith殿堂入り(2019年にした)について 良かったなぁと思ったこと

 本年の殿堂入り投票の結果が出ました。JeterとWalkerはおめでとうございます。二人とも殿堂入りに値する、素晴らしい選手だったことは間違いなく、良かったなぁと思います。

 Twitterにはちょいちょい漏らしていたのですが、感想をいくつか。

 

 1つはJeterの満票について。もし私に投票権があれば、Jeterに投票はしていたでしょう。彼のいない野球殿堂は考えられないレベルだと考えています。その前提の上で、満票を逃して良かったな、と思っています。その理由は、むしろ満票とすることで、様々な意見を持っている人がいて議論をすることを阻害する可能性があるからです。同調圧と言えば理解をしてもらえると思います。仮に疑いようのないレベルの選手であったとしても、その選手についての議論、どれほど素晴らしい選手だったのか、というのをしないである種思考停止になる可能性があるでしょう。特にRiveraの満票獲得によって、思考停止が解禁させられてしまったようにも思えます。そうじゃなくてよかったと思うのです。むしろJeterに投票しなかった人探しで、いやいやこれだけJeter凄かったのに、なんで入れない?という記事が多く書かれ、盛り上がったようにも思えます。良いこと良いこと。無記名投票だからできることで、投票相手とその理由を明かしたい人はすればいいし、したくない人はしなければいい。そういう今のシステムは良いなぁと思います。

 

 2つめは薬物疑惑勢について。私は特にBondsやClemens、Schillingらの殿堂入りはアリだと思っています。彼らは薬物使用を認めていたりほぼ間違いなく黒だったりします。ですが、当時のMLBは「禁止」ではない、あるいは04年以前は罰則がない状況でした。つまり彼らを当時「違反」とすることはできず、今の規定に照らせばアウトというのはいわゆる「法の不遡及」に該当します。その中で彼らは素晴らしい成績を残したのだから、私は殿堂入りすべきと考えています。これは前々から言ってきていて、過去記事にもありますね。

(参照)

 徐々に得票数が伸びていること、再来年がラストチャンスと考えると、そのラストチャンスでの「当選」はそれなりな確率である気がします。むしろ記者が彼らを闇に葬るという判断をできるか?という感じです。

 一方で、スクリーニング検査に引っかかり、罰則を受けている選手については、殿堂入りを認めたくないと考えます。ルール違反して成績を残したと思ってしまうからです。Bondsは少なくともルール違反してないか、少なくとも現行犯でバレてませんから。

 

 3つめは得票率5%に満たず足切りされてしまった選手たちについて。Konerko以下、16名の選手たちが足切りされてしまいました。被投票権1年目の選手で2年目に進むことができたのはBobby Abreu一人でしかありませんでした。個人的に殿堂入りに値するかどうかはおいといて、Konerko、Giambi、Soriano、Lee、Dunnの5名については、彼らの実績で殿堂入りに値するかどうかの議論を継続したかったなと考えます。その機会を奪われてしまったことは残念です。これについては、Schilling、BondsやClemens、あるいはManny Ramirezら薬物疑惑勢が残っていることで、あおりを受けて得票数が伸びなかったのではないかと考えます。通常であれば(つまり薬物関係なければ)、彼らはとっくに殿堂入りしていて、その分の得票がKonerkoら今年1年目の選手にも回ってきたでしょう。具体的には彼らはちょっと足りない成績にも見えるのですが、一発アウトではなく、議論を継続という方向で決着したかったです。

 

 

 というところで本題に入りましょう。Lee Smithについて。彼についてこれまで深い議論をしたことが無かったと思うので。

 Lee Smithは1975年にドラフト2巡目でCHCと契約、1980年にMLBデビューをしています。彼はマイナー時代に中継ぎに転向して以来、MLBでもほぼリリーフ一本で1997年まで18年MLBでプレーしました。1982年頃からクローザーとして定着し、通算478セーブを上げました。これはHoffmanに抜かれるまでMLB通算最多セーブ記録でした。引退後03年から殿堂入り投票の被投票権が得られましたが記者投票では10年かけても殿堂入り基準の75%で到達しませんでした。最高得票は2012年の50.6%だったはずです。

 彼が記者投票で殿堂入りできなかった理由としてはスミスがMVPやCYAと無縁だったこと、リリーフ専門でイニング数が少なかったこと(通算1289.1回)、セーブ成功率や無失点でリリーフする確率が低いこと、1セーブに要するアウトカウントが少ないこと(つまり最終1回しか投げない)、あとは表立っては言いませんが、同じ1イニングしか投げないクローザーとしてはHoffmanやRiveraと比較するとセーブ数で見劣りがすることなどが挙げられています。

 ちなみに他にリリーフ専門で殿堂入りした投手としてはHoyt Wilhelm、Rollie Fingers、Dennis EckersleyGoose GossageBruce Sutterらがおります。彼らと比較した結果ともいわれます。

 さらに被投票権の合った時期が、ちょうどセーブの価値が下がっている時期にも当たり、単にセーブ数を稼いだだけのクローザーは殿堂入りにそぐわないという考えが多かったとも理解しています。

 いずれにせよ色々と不幸に動いたのですが、私個人としてはSmithの殿堂入りは支持しているものです。それはアメリカ野球殿堂のスローガン「歴史を伝え、偉業を称え、世代を繋ぐ」(Preserving History, Honoring Excellence, Connecting Generations)という点では十分すぎる功績を彼が残したと考えているからです。なんだかんだ言われてもまだセーブという概念はMLBの公式記録です。この公式記録で、長らく歴代最高の数字を残していたSmithを殿堂入りさせないというのは不自然だと感じているのです。

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 せっかく作ったのでこのグラフをご覧ください。これは歴代セーブ数のトップの変遷です(FGから作ったので、FGの最初1871年から記録)。1969年に太い線を引いてありますが、ここから先が公式記録としてセーブが認められるようになりました。見ればわかりますが、1960年代から野球の質が変遷し、セーブ記録もここでぐっと右肩上がりになっているのがわかります。もちろんセーブが公式記録となったことも影響しているでしょう。

 1875年に通算セーブ数の記録が10にのりますが、ここからしばらく停滞します。ちなみに長らくセーブ記録を保持していたManning氏は通算13セーブですが、野手との二刀流ですね。調べた限りフットボールのManning家とは関係なさそうです。

 そこから時代は下って1926年にMarberryが50セーブを突破した初の選手となりました。彼はさらに1934年には101セーブまで記録を伸ばし初の3桁セーブの選手にもなっています。

 そして殿堂入りもするWilhelmが1969年に通算200セーブ目。公式記録化と同年というのがまた良いですね。続いて1982年にFingersが300セーブ。彼はデビューが1968年で、セーブという概念とほぼ同時期にデビュー、クローザー最初の世代ともいえるかもしれません。1993年にSmithが400セーブを記録。さらにHoffmanが2007年に500、2010年に600セーブをあげ、2011年にRiveraが続き今に至っております。

 ちなみに過去通算最多セーブ記録を保持していた選手は合計16名。Fisher(1872-1874年)、Spalding(1873-1875年)、Manning(1876-1893年)、Mullane(1894-1898年)、Nichols(1898-1906年)、McGinnity(1907-1909年)、Brown(1910-1925年)、Marberry(1926-1945年)、Murphy(1946-1961年)、Face(1962-1963年)、Wilhelm(1964-1979年)、Fingers(1980-1991年)、Reardon(1992年)、Smith(1993-2005年)、Hoffman(2006-2010年)、Rivera(2011-)となっております。Manning、Mullane、McGinnity、Marberry、MurphyとやけにMから始まる人が多いのが印象的です。Mの人だけで合計62年もいますから年表にするとなおさら目立ちます。

 あとこっそりFingersとSmithの間、1年だけ歴代最多をマークしたReardonが逆に目立ちますね。ちなみに彼も殿堂入りできてませんが、個人的にはしても良いけどSmithほどの優先度は高くないと感じます。

 

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 せっかく作ったのでその2

 さて、せっかくなので、Wilhelm以降の歴代最多の人の積み重ねとついでに殿堂入りしたEckersley、Gossage、Sutterの3名を加えて作成しました(Reardonの目立たなさがすごい)。これ見ればSmithを殿堂入りさせたくなるとおもうんですよね。同時代人と比べて圧倒的なセーブ数を積み重ねていますから。すごいなぁって感じてもらえればです。

 ちょっと詳しく。まずWilhelmに関して興味深いと感じます。セーブが公式記録になるのに前後してぐーっと数を伸ばし200セーブ超えたところで引退。まさにセーブを作った男の一人という感じがします。さらにFingers、Sutter、Gossage、Eckersleyが第1世代。それにReardonとSmithが続いています。Eckersleyは見えにくいですがクローザーになる前に3セーブくらい稼いで1988年くらいから一気に伸びてきています。

 最後にHoffmanとRivera。この二人と比較されたら確かにSmithも見劣りしますし、現代の基準で478セーブだけで殿堂入りかどうかは怪しいですね。それでもこれだけ積み上げたという点で私は全く恥ずかしいとは思いませんし、殿堂入りに値すると思うのです。

 だから、19年にベテランズコミッティーで殿堂入りしてよかったね、Smith、と思います。ちゃんちゃん。