Rayを釣りたくて III

フロリダ沖に降り注ぐ栄光の光の中で舞い踊るトビエイを釣り上げる事を望むブログ。スポーツナビ+閉鎖に伴ってIIIとなって引っ越しました。旧記事で画像がほしい記事があればコメントいただければ、気づき次第対応します。

【連載 第3回】打者の運と実力を探る 余談その1 偏差値

 [第一項:偏差値]

 日本人なら多くの人が一度は聞いたことがあるでしょう、偏差値。中には聞きたくも見たくも食べたくもないという人もいるとは思います。どうしても受験の頃を思い出してしまうからでしょうか。ちなみにseriseriは受験とは無関係な人生を送ってきたのであまり嫌悪感はありません。最後にある程度のサンプル数の中で出した偏差値は国51数47理54社56といびつな恰好だったりします。

 それは一旦置いといて、この偏差値、要するに数字で表されて、数字が大きい方が基本的に強そうだということはわかるかと思います。もう少し突っ込んで言うと、ある数値がそのサンプルの中でどれくらいの位置にいるかを表した数字で、平均値が50、標準偏差10として定めた物です。この中の標準偏差とは何かと言うと、分散の正の平方根のことで、簡単に言うとどれだけサンプルの数値がばらけているか、を示したものです。

 この偏差値は平均点付近に多くのサンプルが集まっている正規分布かそれに近い形をとるもので使われることが多いです。サンプルが正しく正規分布をしている場合、偏差値50を中心として40-60の間に68.3%、60以上か40以下が15.866%、70以上か30以下が2.275%、80以上か20以下が0.13499%の出現率で、偏差値で100を超えるか0を切る標本は0.00002%しか出現しないことになります。

 今回は、BABIPがほとんど正規分布に近い形をとることから、運の要素の偏差値、名付けて幸運偏差値を計算していこうと思います。

 ちなみにこれが余談となっている理由ですが、

 1.幸運を偏差値にしたところで、順位の変動がある訳でもないので、単純にLuckを見れば良いから

 2.今回はBABIPの総和を出すのにそのまま相加平均(いわゆる普通の平均)をしているが、正しくはサンプル数の平均を出すのには、サンプルのBABIPをきちんと計算する必要がある。打席数が各選手によって違うためである。つまり正しくない平均を使っている可能性があるから

 となります。特に2.に関しては正しく計算する上では弊害となり得るでしょう。今回は単純に楽しみたいがために計算しました。

[第二項:結果]

 計算の結果については本稿の最後にまとめて記載いたします。また、「観ればわかる」事実についても記述を避けます。

[第三項:運と実力]

 本稿の最後にまとめてある表はLuckの降順としています。Luckの降順のまま、BABIP、xBABIP、Luckのグラフとしてみました。

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 まずLuckについて確認します。第一章で確認した通り、Luckの分布も正規分布になっていることを裏付ける様な、美しいグラフを描くことができています。実際は偏差値80以上のサンプルは4回記録されている一方、20未満はわずか1度、25未満でも4回となっており、サンプル数が正しく正規分布してないこともわかります。これについてはLuckが高い方であれば選手を起用しない理由はないが、低い方であれば起用しないこともある、という理由が正しそうに見えます。これを定量化することも必要かと思われますが、選手起用については打撃のみが起用を決める要素ではないので、非常に難しいでしょう。

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 BABIPを見ると、確かに右肩下がりで、Luckに似ている形のグラフが描けます。が、乱れて上下しているように、運に対して、それ以外の要素が絡んでBABIPを形成していることが分かります。

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 そして「実力面」と言われるxBABIPと比較をしたところ、今度は一切傾向が見えず乱高下しているだけとなりました。詳細な検定は行っていませんが、ここから何らかの有意な結果を導き出すことは困難でしょう。ここからわかることは、LuckとxBABAIPの間ではなんら相関性は無く、いくらxBABIPが高くてもLuckを左右させることは困難だということです。

[第四項:個別の打者の偏差値の推移 その1]

 前項ではxBABIPとLuckの関係性は非常に薄いことを確認しました。ところがこの中には様々なタイプの打者が含まれてしまっているために、それぞれの打者の幸運偏差値の推移を見比べてみる必要もあるかと思います。特に、Luckを操っている疑惑のあるような打者を選んで確認してみます。その他ご希望があれば、追記も考えます。

 まずは幸運偏差値の特異点、Ichiroの幸運偏差値を見てみましょう。

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 まずはグラフを見るとBABIPはxBABIP以上にかなりLuckの方に影響を受けていることが分かります。そのLuckについて見てみると、かなり平均的に高い値を示している一方で11年以降は平均値を割っています。ちょうど打率が3割を割って、衰えが指摘された時期と完全に一致していることが分かるでしょう。

 このLuckは平均でも偏差値57-58程度もあり、かなり高めの数値が出ています。この理由についてはわかりませんが、総じてLuckが高く出る打者だと言えるでしょう。理由づけについてはまずはもちろん足が速いことはあげられるでしょう。GBのBABIPを.240で計算していますが、Ichiroに関して言えばこれを確実に上回るだけの走力を見せていると言っても間違いないと思います。ただし、これだけでは1B到達速度は変わっていないという報道もあるとおり、11年以降の不振を説明することは出来ません。視力が落ちたという様な憶測も耳にしたことがありますが、xBABIPはむしろ上がっており、12年の偏差値69.72はキャリアハイな上、02-13年の間でも全体56位(1,800超のサンプル中)に相当する、とても良い成績だと言えます。

 さらに言えば、Ichiroは元々xBABIPも高い選手で、通常は偏差値55以上、11年間で4度の偏差値60以上を記録するなど、かなり上位の実力を持つ選手であることは疑いありません。これにより、高い打率と多くの安打を生み出していたと言えます。

 また、これを見るとIchiroが隔年で好成績を残していた理由もわかり、Luckがほぼ隔年で上下動を繰り返していたためにであると確認できます。それと比べるとxBABIPの変動は概ね小さいものになっています。端的に示されているのが04年と05年です。MLBのシーズン記録となる262安打を記録した年として記憶されている04年はxBABIP偏差値54.55と02-05年の間ずっと偏差値60を超えていたのと比較するとやや落ちる数字となっています。ところが幸運偏差値は脅威の82.09をマーク、BABIP偏差値も80.96でした。翌05年はxBABIP62.05と7.5ポイントも上昇させたにも関わらず、Luck45.95と初の平均未満となり、打率.303 206安打とかろうじて3割と200安打をキープに成功した形になったのです。このように如何に足が速いIchiroですら運の呪縛から逃れることは不可能で、実力以上に大きな影響力を持っていることが分かります。

 結論として、幸運偏差値を元々高く出す能力のある選手はいる、また実力以上に運が大きな影響力はある、と言えるでしょう。また、11年以降については私程度の分析では不明、とさせてください。現時点では運の要素による不振だと結論づけられると考えられます。

[参考:幸運偏差値一覧]

 無機的に100名刻みで記録していきます。