Rayを釣りたくて III

フロリダ沖に降り注ぐ栄光の光の中で舞い踊るトビエイを釣り上げる事を望むブログ。スポーツナビ+閉鎖に伴ってIIIとなって引っ越しました。旧記事で画像がほしい記事があればコメントいただければ、気づき次第対応します。

【連載 第4回】打者の運と実力を探る 余談その1 偏差値

[第四項:個別の打者の偏差値の推移 MVP受賞者]

 前項ではIchiroの幸運偏差値及びBABIP・xBABIP偏差値の推移を確認しました。彼は基本的にxBABIPも高く、幸運偏差値も高く出る打者であるということがわかりました。また、結果として現れるBABIPはxBABIP以上に運・不運に因って左右されていること傾向に見受けられました。

 本項では引き続き他の打者を確認して何らかの傾向を見ていきます。

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 まずは上の表をご覧ください。ずらりとMVP受賞者を並べてみました(本稿の趣旨にそぐわないVerlanderを除く)。MVPを受賞するためには、当たり前ですが飛びぬけた好成績が必要となります。もちろんその選手のキャリアと比較しても好成績である必要があります。そのため、当然幸運偏差値も高い値を示している可能性が高いと考えられます。この打者たちについて、BABIP・xBABIP・幸運偏差値の推移を確認していきます。

[第五項:個別の打者の偏差値の推移 典型的なMVP受賞者]

 まずは典型的なMVP受賞者の偏差値推移、つまり幸運偏差値がMVP受賞年に高い数字を示している例を見ていきます。

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 まず一人目は10年ALのMVP受賞者Josh Hamiltonです。彼のxBABIPは安定していて、偏差値で言うと50-55で安定しています。グラフで見るとその安定感に驚かされます。

 一方で、幸運偏差値は10年に突如78.27(期間中7位相当)を記録しました。その結果、BABIPも偏差値77.94と急上昇し、打率.359という打率につながったと考えられます。逆に他の年は安定していますので、この年がよっぽど幸運だったと考えても差し支えないでしょう。

 続いて、ここまで極端ではないにせよ、この年の幸運偏差値の上昇がMVP受賞につながった例を見てみましょう。

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 09年のJoe Mauerは元々優れた打者です。怪我による欠場があるので、とぎれとぎれではありますが、xBABIPが非常に高い打者です。常に偏差値60を超え、最大78(2013年)を記録しています。

 その中で09年はxBABIPはそこまで高い訳ではない(それでも偏差値60.55)のですが、幸運偏差値が68.48を記録した結果、.365/.444/.587とスラッシュラインすべてでリーグ最高を記録しMVP受賞を果たしました。ただし、この年は28本塁打と長打力も上がった年であり、その影響を無視する訳には行きません。とはいえ、幸運偏差値もなかなかのものです。

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 Ryan Howardも高い幸運偏差値でMVPを獲得した打者です。彼もHamiltonと同様に高いxBABIPを持ち、かつその値が安定している打者ですが、幸運偏差値は大幅に振れ回ります。MVP受賞の06年は幸運偏差値65.54を記録。三振ばかり増えた今では想像もつきませんが打率.313を記録しました。併せて本塁打58と149打点はリーグ最多で、文句なしのMVPでした。ところが2年後08年には幸運偏差値が37.89まで下落してしまいました。これを見れば、xBABIPが如何に幸運とは切離されるべき指標かが良くわかります。

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 幸運が2年間続いているため、ややわかりにくいですが、Vottoも幸運に因るMVP受賞と言えるでしょう。Vottoは特にxBABIPが高い選手でもあり、サンプル5年のうち偏差値70以上を2度に加え08年も68を記録。とても球を捉えるのが上手い打者だと言えるでしょう。しかし、MVPの10年はこの期間最低のxBABIP偏差値50で、ちょうど平均レベルでした。しかし幸運偏差値70.5という幸運に恵まれ、打率.324を記録し、MVPを受賞しました。09年も非常に似ている数字が出ており、スラッシュで見ても09年.322/.414/.567に対して10年.324/.424/.600と言う数字でした。ところが本塁打が09年25本から10年37本と増加したことが決め手になったと言えるでしょう。また、チームが地区優勝したのも大きかったと考えられます。

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 A-Rodは過去3度のMVPを受賞していますが、典型パターンでの受賞は05年のみです。彼は元々xBABIPが低い打者ですが、05年は偏差値34.48と赤点レベルです。一方で幸運偏差値は74.92(期間中14位相当)と豪運を発揮し、MVP受賞になりました。

 とはいえ、A-Rodの受賞理由はどちらかと言うと打率以上にパワー面での理由が大きいです。03年47本塁打118打点、05年48本塁打130打点、07年54本塁打156打点といずれの年も本塁打王を獲得してのMVPですし、打率は首位打者はおろか、03年などは.298での受賞となりました。

 また、幸運偏差値の推移をみると、かなり上下動の大きな選手であることが分かります。05年の75を筆頭に10年間で4度の偏差値60以上、3度の50未満はなかなか激しい動きですね。

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 Poseyはサンプル数が少ないので名言は出来ませんが、幸運偏差値の高さによるMVPともいえるかと思います。とはいえ、この年はxBABIPも極端に高く、さらにチームの優勝もあったという理由もあると考えられます。

[第六項:個別の打者の偏差値の推移 パワー面での評価によるMVP受賞者]

 前項では典型的な幸運偏差値上昇に因るMVP受賞者を見てきました。その中でVotto、A-Rodとパワー面での評価がMVP受賞につながった旨をこめんとしました。そのため、続いては特段幸運ではないものの、パワー面での評価が大きなウェイトを占めての受賞したパターンを確認します。

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 まずは何と言っても史上最強打者Barry Bonds。彼もxBABIPは決して高い打者ではありません。また、幸運偏差値も高いとは言えず、BABIPは平均的な数字でしかありません。しかしながら、注射針に頼ったその破壊的なパワーで左打者には地獄の様なSan Franciscoで本塁打を量産しました。その結果が非常に良くわかる表になりました。xBABIPが高くならないのは本塁打を狙ったフライボールヒッターであることが大きな理由と言え、xBABIPはFB.150で計算していますが、さらに追加で3割を本塁打にしてしまえば、打率も急上昇するという訳です。

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 00年代最強打者Pujolsも同じ様な事が言えます。彼も期間中3度のMVPを受賞していますが、xBABIPは低く、幸運偏差値はかなり高めではあるもののMVP受賞年が突出して高い訳ではありません。彼ほどの成績を残していれば他の打者との兼ね合いもあり、受賞となるのでしょう。

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 Miguel CabreraはxBABIPも高いですが、同時に幸運偏差値も常時と言える程高い選手で、04-13年の10年間で8度の偏差値60超を記録しています。この幸運偏差値の高さはIchiro並みです。ですが、彼は右打者で鈍足、さらにはランナーの多いクリーンナップの選手です。幸運偏差値の高い選手の説明に俊足の左打者であるから、という説明が如何に虚しいものかを端的に示しています。

 彼はもちろん幸運の恩恵も受けていますが、12年の三冠王、そして13年のスラッシュライン三冠、そしていずれも44本塁打で130打点超という成績でした。それまではせいぜい30本台だった本塁打を40の大台に乗せ、打点も同様に130打点超と主にパワー面での成長が一つの大きな理由であるとも言えるでしょう。

 このように必ずしも飛びぬけて幸運でなくてもパワー面での評価もありMVP受賞と言うパターンも多く見受けられます。

[第七項:個別の打者の偏差値の推移 地区優勝チームの主軸と言う理由によるMVP受賞]

 それ以外のパターンもあります。大きなタイトルは獲得できてないものの、チームが地区優勝し、その主軸だったというパターンがあります。

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 2011年のMILは1982年以来2度目の地区優勝を飾りました。その中でチームの主力で打率.332、本塁打33、盗塁33とトリプルスリーを達成したBarunがMVP受賞となりました。ですが、この年、元々幸運偏差値の高いBraunですから、そこまで飛びぬけて幸運と言う訳ではなく、周囲の選手との兼ね合いやPO進出と言うのが大きく作用したパターンと言えます。

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 McCutchenも同様で、幸運の傑出度としては12年の方がはるかに良かった、と言う珍しいパターンです。

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 Tejadaは終盤の20連勝、地区優勝への大きな貢献が認められた形で、02年二冠王のA-Rodに競り勝ちMVPを受賞しました。が、この年はxBABIPも幸運偏差値もごくごく普通の値です。彼の成績はとても良いものでしたが、それは決して幸運に因るものではなかったということが言えます。

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 GuerreroもLAAでの18年ぶり地区優勝の時の主砲でトリプルスリー、そして40-40未遂が評価されてのMVP受賞です。この年の彼はそれなりに幸運偏差値は高い57.48を記録していますが、それ以降61、65、57と記録するなど、むしろ平均的に幸運偏差値が高い打者であるため、飛びぬけて幸運であるわけではありません。xBABIPがキャリアでも高めに出ていることも大きく作用していますが、パワー面、40-40未遂、トリプルスリー、地区優勝、これが大きな理由です。

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 Morneauについても同じように地区優勝への大きな貢献も挙げられます。また、本命不在のMVPレースだったことも影響していることも否定できないでしょう。平均するとxBABIPも幸運偏差値も低目な打者なのですが、この年はようやく平均を超える幸運偏差値と高いxBABIPでの受賞でした。もちろん幸運でもあるのですが、それ以上に彼の実力によるMVPと言えるでしょう。また、54HR137打点のOrtizが相手だったことも大きく、DHにはMVPは与えられないという考え方があったこともプラスに作用しました。もっとも守備で平均以下で失点を増やしている打者であればむしろDHの方が勝利への貢献度が高そうにも思えるのですが。守備での失点が0と言う意味ですから。

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 地区優勝と言う意味ではRollinsも一緒です。Grandersonと共に20本塁打20二塁打20三塁打20盗塁をクリアしたのですが、GrandersonはA-Rodに敵わなかった一方で、Rollinsは見事にMVP受賞しました。もっともRollinsの場合は遊撃手と言う守備面の評価も高かったことが挙げられます。

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 最後は地区優勝こそTBに持って行かれた物のワイルドカード獲得に大きく貢献したPedroiaです。この年も本命不在ともいえる年で、Pedroia、Morneau、Youkilis、Mauer、そしてK-Rodに1位票が投じられており、彼らに加え5位にランクインしたQuentinまでが140ポイントを超えてくるという接戦の年でした。

 この年のPedroiaは前年より幸運偏差値を落したもののxBABIPを向上させ、BABIPを維持しました。とはいえ、彼も高めの幸運偏差値の持ち主であり、そこまでこの年に限って幸運だったとは言えません。それ以上に彼の必死でプレーするプレースタイルが効いたと言えるでしょう。また、地区優勝のTBやCWS、LAAでは飛びぬけて好成績の選手がおらず、ここにも本命不在と言える年であることも効いたと言えます。

[第八項:個別の打者の偏差値の推移 MVP打者総括]

 以上のように、必ずしも「(BABIP-xBABIPと言う意味での)幸運」だけがMVPの決め手になるとは限らないことが良く理解できました。また、打者にもさまざまなタイプがおり、xBABIPが高い打者、低い打者、幸運偏差値を高く出せる打者、低い打者などがおりました。特に同じようなパワーヒッタータイプでもHowardの様に高いxBABIPを持ち、幸運でMVPになった打者、逆にA-Rodの様にxBABIPは低いながらも幸運やパワーを武器にしている者、Miguel Cabreraの様にxBABIPも幸運偏差値もかなり高い値を示す者など本当に多種多様なことが分かります。そしてBondsの規格外のパワー…。

 引き続きこの幸運偏差値を用いて気になる打者について見て行こうと思います。次回はxBABIPが高いのになぜか極度の不運な打者についても見る予定です。

(希望される打者がいたらお知らせください)