Rayを釣りたくて III

フロリダ沖に降り注ぐ栄光の光の中で舞い踊るトビエイを釣り上げる事を望むブログ。スポーツナビ+閉鎖に伴ってIIIとなって引っ越しました。旧記事で画像がほしい記事があればコメントいただければ、気づき次第対応します。

【連載 第5回】打者の運と実力を探る 余談その1 偏差値

[第十項:個別の打者の偏差値の推移 常に不運な打者]

 前項までMVP受賞者の幸運について見てきました。その結果、各受賞者は必ずしも「xBABIP-BABIP」と言う意味、つまり打率と言う意味では幸運に恵まれているとは限らないことが明らかになりました。

 その中で例えばA-rodやMiguel Cabrera、Pujols、Ryan BraunあるいはVladimir Guerreroの様に概ねいつも幸運であるような選手がいることが分かりました。もちろん2010年以前のIchiroもその中の一人と言えるでしょう。

□01:Ichiro

□02:Miguel Cabrera

□03:Ryan Braun

 ご覧のとおり、いずれの打者も基本的には幸運に恵まれていることが分かります。そのため、逆に常時不運ともいえる打者もいるのではないかと考えることもできると思います。MVP受賞者の中ではRyan Howardがどちらかと言えばこのタイプと言えます。高い打撃力を持ちながらもLuckの偏差値がxBABIPを下回っており、唯一幸運だった06年にMVPを受賞しています。

□04:Ryan Howard

 他にはどのような打者がいるでしょうか。実は不運な選手と言うのはあまり多くありません。これは成績が上がらないため、長期間レギュラーとして活躍することが難しいためではないでしょうか。ですので必然的に「高い打撃力を持ちながら不運なため、レギュラーではいるものの、イマイチ殻を破れないタイプ」の選手や「打率以外の何らかの魅力を持っているため、多少不運でも使い続けられるタイプ」の選手などに限られてきてしまいます。その典型例を紹介したいと思います。

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 James Loneyは「高い打撃力を持ちながら不運なため、レギュラーではいるものの、イマイチ殻を破れないタイプ」と言えます。その打撃力は高く常時xBABIP偏差値55を超え、13年は偏差値82.82と期間中2位のxBABIPを記録しながら、幸運偏差値は36.76と低迷し、それ以外の年でも偏差値50未満と基本的には不運な打者であると言えます。TBでは3年21Mと超大型契約(TBの中では)を結んで、幸運になることを期待しているのではないかと考えている節がありますが、どうもそれは難しいような過去の成績の推移にも見えます。ただし、高い打撃力と少ない三振数のおかげである程度の打撃力(TBの中では)は有しているため、レギュラーを外されることは考えにくいでしょう。

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 同じく現在TBのDavid DeJesusも同様に「高い打撃力を持ちながら不運なため、レギュラーではいるものの、イマイチ殻を破れないタイプ」と言えるでしょう。ただ、Loney程極端な数字は残してはいません。彼はこれまでも考察したようにじっくりと球を見るタイプの打者ですので、出塁率の高さがあり、併せて二桁本塁打を狙えるパワー、外野3ポジション守れる守備、二桁盗塁もできるスピードと悪くないツールの持ち主で、それが示す通りFA以降はOAK、CHC、TBとSABR系GM御三家すべてに所属した経験があります。

 一方で、「打率以外の何らかの魅力を持っているため、多少不運でも使い続けられるタイプ」という打者もいます。

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 それがこの人、Paul Konerkoです。彼も基本的には「幸運を味方にしていないタイプ」の選手です。幸運偏差値を見ると2010年だけは偏差値61.18と幸運ではありましたが、それ以外はほぼ偏差値50を割り込む不運な打者です。もっとも彼の場合はxBABIPもそれほど高くもありません。それでも彼はたぐいまれなるパワーの持ち主でした。また、人格面での評価も高かったためレギュラーで居続けることができました。

 このように明らかに幸運を味方につけてない打者と言うのもいることが分かります。DeJesusは走力のある左打者ですし、Konerkoは右のパワーヒッターと言う意味ではMiguel CabreraやA-Rod、あるいはPujolsとは似たような選手です。Konerkoに、あるいはLoneyにIchiro並みの幸運偏差値を付与するととんでもない打者になりそうな気がしますし。(試算でしかないですが、13年のLoney が04年Icniro並みの幸運偏差値だった場合、打率.401となります。)

 本項の最後として同様に「幸運を味方につけてないタイプ」の打者として彼を再度掲載します。

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 いくらドーピングされているとは言え、凄まじいまでの打撃を誇っていたことがうかがえます。

[第十一項:個別の打者の偏差値の推移 様々なタイプの幸運な打者]

 もちろん、MVP受賞には縁が無くても幸運な打者はいます。そしてそれは様々なタイプの打者であり、例えばパワーヒッター、あるいは俊足な打者、などとは言い切れないところがあります。ただし、ある程度のサンプル数を求める必要がある都合上、幸運な打者と言うのは好成績を残しやすいため、レギュラーで居やすい、そのため簡単に見つけられるというところがあります。

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 例えばDerek Jeter。彼はそもそも非常に高い打撃力を持つ選手ですが、さらに幸運の持ち主でもあります。幸運偏差値は軒並み60を超えるという非常に高いレベルのであることが分かります。

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 同じようなタイプの打者ですが、Hanley Ramirezも極端な幸運を味方にしている選手です。ただし、フライが多く、ライナーがやや少ない打者であるため、xBABIPはあまり高い打者ではありません。

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 こういった幸運に恵まれる選手は俊足型の選手には限りません。Jason Bayは強烈なフライボールヒッターですからxBABIPは低く、最底辺のレベルでしかありません(それを補っていたのがパワーで本塁打数は多い)。しかしながら非常に高い幸運偏差値の持ち主で偏差値60はザラにたたき出しております。こういう打者もいるのです。

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 幸運に恵まれているパワーヒッターと言う意味ではLongoも同様と言えるでしょう。彼もフライ系打者であるためxBABIPは決して高くありませんが、幸運偏差値が割と高めに出ている傾向にあります。ただ、それ以上に乱高下しているようにも見えます。

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 乱高下がありながらも平均して高い幸運偏差値の持ち主と言うことではTorii Hunterも同様の選手だと言えるでしょう。xBABIPは低いながらも幸運偏差値は高い打者です。これだけを見るとLongoとHunterは似通った打者に見えますが、実際はLongoはよりよく球を見る打者で、Hunterは積極的に打っていく打者ですので、イメージは一致しませんね。

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 最後はこれくらいにしておきましょう。Matt Holliday。彼は打撃力は極々普通という感じですが、期間中9年間で2度の幸運偏差値70超を記録するなど、幸運はかなり高いレベルにある打者です。

 ここで注目したいのは彼が幸運に恵まれている打者であること以外に、08-09年のBABIP偏差値と幸運偏差値の動きです。08年はBABIP偏差値67.53、幸運偏差値65.94と言う数字でしたが、09年にBABIP偏差値が61.48に下落した一方で幸運偏差値は71.09と上昇しました。詳しくは次項で見ていきましょう。

[第十二項:打者の偏差値の推移]

 Ichiroについて見た第四項でも少しだけ触れていますが、基本的に結果的に表れるBABIPはxBABIPよりも幸運偏差値に多く左右されます。ですからほぼすべてのグラフに共通している動きとして、xBABIPの偏差値の動きとは関係なく、幸運偏差値の上下動によってBABIPの偏差値が動いていることが分かります。

 イメージの問題ではありますが、xBABIPが打撃力の土台をつくり、その上で運要素が最終的な成績を左右する、と言う感じです。そのため、幸運偏差値が上がったのに、BABIPが下がった、あるいはその逆で幸運偏差値が下がったのにBABIPが下がったケースと言うのはほとんどありません。

 実際ここまで示した打者で言うと

 ・Ichiro 02→03

 ・Ichiro 12→13

 ・Konerko 04→05

 ・A-Rod 02→03

 ・A-Rod 09→10

 ・Holliday08→09

 ・Bay 05→06

 ・Hunter 07→08

 ・Guerrero 07→08

と9ケースでしかありません。ちなみに26打者で150サンプルから見て10ケースのみで、それ以外の140ケースはBABIPと幸運偏差値が同じような傾向での挙動を示しています。程度の差はあれ、幸運偏差値が上がればBABIPも上がる、運が下がれば、BABIPも下がっています。このように、逆のケースは極々限られた数でしかなく、一般的ではないと言い切れます。

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 表にしてみました。いずれの場合も土台となるxBABIPが根本的に大幅変動する上に、さらに幸運偏差値が小規模の変動でしかない、と言うパターンの時にのみ発生することが分かります。いずれも幸運偏差値の変動ポイントの倍以上のxBABIPのポイントの変動が必要となり、どちらかと言えばxBABIPの方が安定した挙動を示しますから、困難な条件が付随する訳です。

[第十三項:個別の打者の偏差値の推移 その他目についた強打者たち]

 それ以外に気になった打者をいくつか取り上げてみたいと思います。(せっかくグラフ作ったので)

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 低打率でお馴染みのAdam Dunnですが、幸運偏差値に関して言うと極々一般的な値が出ておりますが、かなり乱高下をする選手だと言えます。また、強烈なフライ系打者でしたので、xBABIPは決して高い値を示している訳ではありません。KonerkoやHowardと比べると不思議な感じがします。似ている様な打者でも色々違うものです。

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 そういう意味ではDunnにもっとも近いタイプの打者はOrtizかもしれません。低いxBABIPと一般的な数値を出す幸運偏差値、そして各数値が乱高下と言うのが非常に似通っています。

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 Manny being Mannyで知られるManny Ramirezも良く似た打者ではあるのですが、打撃力が高く、さらにどちらかと言うと攻撃力(xBABIP)も高い、そしてパワーもあり、フリースインガーに見えながらも選球眼も良い、とある種打者の理想像に近い選手です。また、乱高下も少なめに見えます。04年のxBABIPの大きな谷についてはまた後日の記事(「子供を産もうとしたメジャーリーガー(仮題)」)で論じたいと思います。

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 本日最後の打者はMark Teixeiraです。実は彼については一番最初に紹介すべき様な打者の典型的な動きをしている打者で、その面白みがないとまで言われるインタビュー同様、優等生すぎて面白くない様な数字の動きです。

 彼は有数のパワーヒッターのイメージですが、若い頃はLD%が高く、FB%が低いという打率特化型の打者でした。それが緩やかにフライが増え、パワーヒッター化していったため、xBABIPは漸減傾向があり、幸運偏差値は全盛期に向かって盛り上がりを見せ、キャリア終盤に差し掛かると今度は下落し、思うような成績を残せなくなってきていることが見て取れます。今後これが劇的に回復し得るかどうかについては私はサンプル数が足りないのでわかりませんが、調べる価値はあると思います。

 また、キャリア前半が日本であり、さらにBatted Ballのデータが無いIchiroについても同様のことが言えるのではないかと考えており、漸減傾向のxBABIPと下落する運と言うものは10年以上プレーした平均的なMLBの打者の成績をモデル化する可能性を示しているのではないかと考えています。

 なぜか余談が長くなってしまいましたが、次回以降本編に戻ろうと考えています。