Rayを釣りたくて III

フロリダ沖に降り注ぐ栄光の光の中で舞い踊るトビエイを釣り上げる事を望むブログ。スポーツナビ+閉鎖に伴ってIIIとなって引っ越しました。旧記事で画像がほしい記事があればコメントいただければ、気づき次第対応します。

【連載 第6回】打者の運と実力を探る 第二章 ~運は維持できるのか~

[第一項:運の維持]

 前章では「運」と考えられてきたBABIPについてはかなり実力によって左右されることがあるという結論を導きました。さらに、余談において、幸運を維持している打者、あるいは長いこと不運である打者がいることが分かりました。

 本章ではこの幸運な打者/不運な打者がその運を維持できるのかどうかについてを考察していきたいと思います。

□01:Ichiro

□02:Braun

□03:Loney

 再掲ですが、このように幸運を維持している打者もいる一方で、不運な打者もいる訳です。また、Ichiroなどは幸運ではあるが、かなりの乱高下を伴う打者であるとも言えます。これらの運が維持されるのか、されないのか。されるとしたらどのような理由に因るものなのか、を探ります。

 脱線しますが、TBなどはまだ不運な打者は幸運に転じる可能性、少なくとも元に戻る可能性が高いという判断をしていると考えられます。そうでなければLoneyやDeJesus、Kotchman、Keppingerらの獲得はあり得ないでしょうから。そして事実彼らの補強は成功しています。それだけで良いのか、という疑問を突き付けたいと思います。

[第二項:突出した選手を選び出す]

 まずは基準年で幸運・不運であった選手を選び出します。基準となる数値はBABIP-xBABIPであらわされるLuckが0.030以上、-0.030以下とします。私の個人的な感覚ではありますが、これくらいの幸運・不運以上が本当の意味での不運あるいは幸運であると考えるからです。幸運な打者は247名、不運な打者は253名とほぼ同数で、全サンプル数1843に対してそれぞれ13-4%程度を占めています。幸運偏差値で表すと61.20以上、あるいは38.78以下の選手となり、確かにこれくらいの人数であればそれぞれ幸運、不運と言えるでしょう。

□04

 矢印で示してある、黒い線の外側の選手達です。

 まずはこの選手達だけを抜き出してみます。個別の表は長くなるので、記事の最後にまとめて掲載します。なお、ブランクになっているのは怪我・引退等で翌年プレーが0だった打者です。そのため、翌年のサンプル数は幸運が245、不運が250とやや減少しております。また、翌年の成績については規定打席を割り込もうが、1打席しか立たなくても、全部計算に含んでいます。そのためやや振れ幅が発生しております。

[第三項:幸運を記録した翌年の運はどのように変化するか]

 では幸運だった打者は翌年どのような運を残すのでしょうか。翌年のLuckと前年のLuckとの差をそれぞれ打ち込み、表にしてみました。

□05

 明確な傾向があることが分かるでしょうか。

□06

 翌年も運が向上した打者は245打者中わずかに30名。わずか12%程度の少数派でした。グラフも明確にマイナス方向に振れていて、最頻値は-0.04台、中央値は-0.03台となりました。

 この事実から、幸運な打者は必ずしも翌年もその運を維持できるとは限らないだけではなく、ほとんどの場合(8割以上の確率です)、翌年運を下落させる、と言えるでしょう。さらに過半数が3分以上の下落を示しているのです。

 一方で一気に不運に転落してしまうような下落幅はさすがにこれも少数派となっています。

□07

 結果的に翌年の選手のLuckの最頻値も中央値も0.000-0.009の間に収まることになりました。ただし、Luckがマイナスになった選手は全部で82名と全体の1/3程度に過ぎませんでした。また、-0.020以下の選手は25名、不運と呼ばれる-0.030以下の選手は15名(6%強)でしかありませんでした。一方で66名、27%近くの選手が翌年も幸運なポジションと呼べるLuckを記録していました。

 もし、Luckが完全に運であるならば、翌年のLuckの分布は0を頂点とした正規分布になるはずであり、ここまで極端な差は発生しないはずです。これが意味するところは、Luckは実際には完全に運ではなく、これをさらにある程度左右できるだけの要素があることを示していると考えられます。つまり実際に幸運な選手はある程度はずっと幸運で、不運な選手はある程度ずっと不運でありそうだ、ということではないでしょうか。

[第四項:不運を記録した翌年の運はどのように変化するか]

 続いて不運だった打者の翌年について確認してみます。

□08

 こちらも予想通りの傾向があるように見受けられます。

□09

 こちらも最頻値が0.000-0.009で、中央値は0.010台と概ねプラスの数字を示しています。ところが幸運打者と違い、ここからさらに運を下落させてしまった選手は61名。全体の1/4近くが不運だったのにさらに不運、泣きっ面に蜂と言うような状況の選手達が、幸運を重ねた選手達よりも倍以上の確率でいるということです。

 また、最頻値・中央値も幸運打者の方は「最頻値は-0.04台、中央値は-0.03台」だった一方で、不運打者の方は「最頻値が0.000-0.009で、中央値は0.010台」とプラスではあるものの、幸運打者の下落に比べると穏やかな回復でしかありません。一気に幸運打者の仲間入りをするような急上昇のパターンももちろん少数派です。

□10

 結果的に不運組の翌年のLuckは最頻値及び中央値が0.020台でした。幸運組は0.000-0.009でしたから、やはり不運組の方が下に押し下げられている形になっています。

 不運組から翌年幸運組になった選手はわずか11名、わずか4.4%のことでしかなく、Luck0以上を記録したのも58名23%だった一方で、翌年も不運組になった選手は93名。実に37%が不運だった翌年も不運でした。Luck0未満82名、不運組転落が15名、翌年も幸運組維持が66名であったことを考えるといずれも1.5倍くらいの人数となっています。

 このことからも、不運組は翌年も不運である確率が幸運組よりも高そうなことが分かります。

[第五項:運は正規分布するか]

 ここまで幸運・不運だった打者の翌年を確認しました。その結果、どうも不運な選手は翌年も不運かそれに近い傾向が、幸運な打者も翌年幸運かそれに近い傾向があることが確認できました。その一方で、極端な不運だった場合、あるいは幸運だった場合、翌年は平均に近づこうとする動きがあることもわかりました。極端な幸運から翌年さらに上昇することは少なく、むしろ下がる可能性は高そうだということです。

 この時点で大方の結論は出てしまっているような気がしますが、この運が正規分布、つまり本当に運なのかどうかを確認したいと思います。

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 xBABIPの分布と幸運組・不運組の分布です。xBABIPは以前も確認した通り、ほぼ正規分布に近い形をとっています。ですが、赤と青の棒はそれぞれが左右に山を作っており、あからさまに0を中心としたグラフになっていないことが分かります。

 再確認になるのですが、幸運や不運は決して正規分布=運ではなく、それらはある程度の力で拘束されている、と言うことになります。

 これは余談で示した結果を支持する形にもなっています。つまり、幸運な打者はいつまでも幸運で、不運な打者はいつまでも不運、と言うことがあり得るということです。ある程度の運の回復も見込めますが、とはいえ昨年よりマシ程度だと言えるでしょう。

 ただし、本章について、実はサンプル数が非常に少ないため、信用はできません。幸運・不運それぞれ250アンプル程度です。これは大数の法則がなんとなく効いてくる1,000サンプルと比較すると完全に足りてません。とはいえBatted Ballがあるのが02年以降で、14年までのデータしかないことを考えると、これが全データともいえるのです。1,000の1/4しかないと考えると、あと30年くらいサンプルを集める必要がありそうです。そのため、今後結論は変化する可能性は十分あります。そのことだけはご了承ください。

 今後はではこのLuckがどういう理由で左右するのかを考えていきたいと思います。

[参考:幸運・不運打者一覧]