Rayを釣りたくて III

フロリダ沖に降り注ぐ栄光の光の中で舞い踊るトビエイを釣り上げる事を望むブログ。スポーツナビ+閉鎖に伴ってIIIとなって引っ越しました。旧記事で画像がほしい記事があればコメントいただければ、気づき次第対応します。

【連載 第17回】打者の運と実力を探る 余談その3 禁止薬物と運

 本稿は連載をしているひとつながりの記事ですが、余談ですので本文とは無関係でもあります。過去記事についてはリンク先からご確認ください。

[はじめに]

 本稿を記事にしていますが、なんとなくそんなこともあるように見える、程度の記事であり、今回はデリケートな問題を扱いながら、かなり確証の無い記事となります。

 本記事を証拠あるいはそれに類するものとして選手たちを罰する、などは全く意図しないものです。議論が盛り上がることは良いことですが、私の意図しない選手への批判等は避けるようにしてください。そのようなものがあった場合は指摘、あるいは事務局への報告等を行う場合もあります。

 また、私自身の立場として、03年以前にドーピングしていた選手、及びドーピングをしていたが本人の謝罪も無く、確実な証拠も無い選手の殿堂入り資格はあると考えています。もちろんその選手が素晴らしい実績を残していれば、と言う前提です。ただ、それ以降の禁止薬物規定違反を犯した選手については殿堂入りの資格は無いと考えます。それは間違いなくルール違反によってもたらされた成績だからです。また、私自身は禁止薬物の使用には反対の立場で、今後禁止薬物、あるいはそれに類する薬物の使用の撲滅を願っています。なお、間違えて風邪薬が、という話もよく聞きますが、それらへの注意も含めての選手のリテラシーだと考えますので、それらの違反でも違反は違反だ、と言う立場です。

 最初にここを明確にしたうえで、今回の記事をアップロードします。今回の記事は批判のためではなく、このようなことが「あとから言われれば確かにな」といえるかもしれない程度の内容です。ちっとも客観的ではないですが、単なる数字遊びから見えた結果をそれっぽく話しているだけです。

[第一項:MLBの禁止薬物]

 MLBはつい最近までは薬物規定に対する罰則が非常に緩いプロスポーツであると有名でした。94-95年のストライキ後、禁止薬物を使用した選手達によるホームラン王争いが、人気復活に大きな影響を与えたとは言え、スポーツ界全体の潮流に逆行していたことは間違いありません。当時から大きな批判がありましたが、MLBは遅ればせながら03年に罰則なしのドーピング検査が、04年から出場停止規定が、そして06年に3回目の違反で永久追放となる現在の規定が設けられました。

 その後も薬物規定違反の選手は後を絶ちませんが、世間からの目は確実に厳しくなっており、13年にはほぼ状況証拠だけで、違反をとることが可能になりました。これは年々進化する薬物に規定が追い付かない状況への対策であると言えます(当時の私はここに対する認識が不足していました)。

 ここまでは周知の事実であると認識しています。

[第二項:みんな揃って薬物を止めた]

 まずは以下のグラフをご確認ください。

□01

 何を言わんとしているかは本連載を読んでいただいている5名くらいの皆さまはわかるんじゃないかと思います。04年にリーグのxBABIPが急落しているのです。そしてそれはしばらくの間続き、12年まで回復を待つ必要がありました。

 それ以前のデータが無いこともあるので、確実なことは言えませんが、各選手が薬物規定違反を犯すことによるデメリットを重く考えた結果であると考えます。それ以降のxBABIPの数値の上昇はまた違う理由であると思います。

 これだけですべてを語るのはあまりにも無謀ですので、その他の数字を確認してみます。

□02

 三振率は一貫して右肩上がりの傾向です。04年にちょっと上がったのち、05年に下がっていますが、それ以上の伸びを示しています。ある種SABR系の考え方の浸透に伴って上昇しているように見え、その影響の方が大きそうです。

□03

 BB/9は一旦上昇した後、下落しています。これもSABR系の考え方の大きさの方が影響が大きいのではないかと考えます。

 以上より、三振や四球などの指標ではxBABIPが下がる理由がイマイチわかりません。元々特に相関があるようなものではありません。むしろHR/FBやLD%が関係ありそうです。

□04

 これは見事に04年以降に下げ止まっていることが分かりますね。確かにこれはパワーに直結する指標ですから、全体的に04年以降下げ止まっていることが分かります。12年だけはかなり高い数値が出ていますが、それを除くと下がっている印象があります。ごくわずかではありますが。

□05

□06

□07

 各打球傾向を見るとGB%は非常に安定感がある一方、LD%はかなり乱高下しています。そしてLD%の数値がxBABIPと強く連動していることがわかりますでしょうか。実際サンプル数は少ないながらも相関係数0.997という非常に強い相関があります。GB%はかなり安定している結果、FB%とは-0.939とこちらも強い相関が出ています。ちなみにGB%とは相関係数0.109に過ぎませんでした。ふううむ。これだけで記事を1本書けそうな結果ですね。

 そんな訳で、04年にはLD%の割合が下がり、HR/FBも下がり、FB%は上がりました。これを禁止薬物を止めたからとするのはかなり無理があるのは承知なのですが、Ryan BraunやMelky Cabreraのことを見ると信じたくなってしまいます。

 そこでこの数字を見てください。

□08

 以前も出した表ですが、各年度の打球傾向毎のBABIPです。xBABIPの算出に使うためのものなのですが。同じように特徴的な傾向が見えます。03年を境としてLDのBABIPは下がり、GBとFBは上昇しているのです。特にFBの上昇は顕著です。これを禁止薬物を止めた選手が多いからであると考えると

・打球速度が落ちている→LDがフライになる、BABIPが下がる、ぼてゴロ内野安打が増えるから

・HRが減る→BABIPに加算される良い当たりのフライがフェンスを越えずに安打になるから

 と解釈を付けることが可能です。あくまでそんなことも可能なだけであり、正しい確証は一切ありません。嘘である確証もありませんが、正しいとは一言も言えません。誤解はしないでください。

[第三項:みんな揃って薬物を止めた]

 ここまでが正しいと仮定します。そうでないとここで記事が終わりますから。では04年に成績が急落している打者を探してみましょう。これは個々の事情にまで踏み込むので増々正確なことは言えないと思いますが。。。

 これが非常に難しいのが、ちょうど03-04年にかけて怪我せずに成績を残せていることが条件以上に、Batted Ballのデータは02年からしかありませんので、04年以降急激に打撃傾向が変わったとしても、元の打撃傾向が2年分のデータで読み取りにくいことです。ですから本当にあくまで参考情報であることを忘れずにデータを見てください。

□09

 まずは調査した選手のうち、ミッチェルレポートに名前があった選手を見てみましょう。表の数字は03年の数字から04年がどれくらい変化したかを示しています。人数が少ないのは04年の時点で現役を続行していた選手が少ないことが理由ですが、BellとPalmeiroを除くと03年と04年の比較でLD%、xBABIPがマイナスの数値を示していて、球を捉える能力が落ちていると考えられます。一方、BABIP自体はプラスもマイナスも入り乱れており、Luckからもわかるとおり、こちらはxBABIPに関わらず運に因る影響もかなりあることが見えます。

 黒で消してある選手はあとで見せますね。

□10

 こちらが私が探し出した、03年までは薬物に手を出していたが、そのオフに止めた様に見える選手達です。基本的にLD%、xBABIPとGB/FBのタイプ変化辺りが判断基準になっているので、LD%やxBABIPはほとんどすべての選手がマイナスを記録しています。もちろん何度も言うとおり、完全に状況から判断しただけですし、一概に言うことは出来ません。例えば下から5段目。松井秀喜の名前が見えています。松井秀喜は03年が1年目、そして04年が2年目ですが、その間に打撃スタイルを大きく変えたことは有名ですし、薬物の影響(があったかどうかはわかりませんが)よりも本人のMLBへの対応の方が影響を与えたように思えます。ただ、だからと言ってここで明確に打撃の質が変化したのに出さないのは不自然だと思ったので敢えて名前を出しています。これによりむしろ信憑性が薄れて、単なる遊びに近いイメージを植え付ける目的もあるのは秘密です。

 そういう意味では下から10番目、黒塗りの選手の下にいる名前の方が衝撃的かもしれません。ただ彼は明確にここでLD%が下落しているのが気になるのです。言われればそうかも、程度でしかないのかもしれませんけれども。。。

 それ以外にもイメージの善悪に関わらずそれなりに知られた名前も多いですね。個人的にはHuffとCrawfordの名前があったのが意外と言うか、TBファンとしては残念と言いますか。

 ここまでで総勢27名です。全部で調査対象が160名だったので、17%程度。そもそも2年続けて成績を残すことすら難しいMLBですから、何とも言い難いと感じます。

□11

 最後に黒塗りだった選手2名。ミッチェルレポートにも名前があって、私が調べた限りでも怪しかった、つまりきわめて黒に近いと感じる選手です。それがBondsとBigbieと、いずれもミッチェルレポートでもキーになった選手ですから、かなり印象が悪いです。ただ逆に04年で明確な禁止薬物を止めていたのではないかとも想像されます。それ以降もステロイドは止めても、HGHはやっていたとも言われますが。

 いずれにせよ、現在の規定である程度の抑止力はあるのではないかと思いますが、それもある程度でしかないという印象でもあります。

[第四項:日本での認識]

 Bigbieと松井を前項で取り上げましたが、さらにはミッチェルレポートにも日本球界経験者が多く入っています。逆にMLBの今の禁止薬物で最初に50試合出場停止を食らったのは入来祐作選手です。さらにNPBがアンチ・ドーピングガイドを設けたのが07年でそれも尿検査のみ。こう考えると実はNPBは表に出していないだけで、よっぽど間が抜けたことをしない限りかなり自由にドーピングできる環境があるのかもしれません。。。これも憶測でしかないですが。ただ日本の禁止薬物への認識の甘さはあるのかと考えます。

 というところで、この無駄にだらだらと続いた連載をおしまいにしようかと思います。全17回の連載で、文字数は48,000文字にもなりました。まるで文系の大学の卒論レベルの文字数ですね(笑)卒論ならもうちょい真面目に書くでしょうけれども。本連載を読んでいただきました皆様には感謝の一言です。

 今後はまたオフの流れに戻ろうかと思います。