Rayを釣りたくて III

フロリダ沖に降り注ぐ栄光の光の中で舞い踊るトビエイを釣り上げる事を望むブログ。スポーツナビ+閉鎖に伴ってIIIとなって引っ越しました。旧記事で画像がほしい記事があればコメントいただければ、気づき次第対応します。

日本人野手の常識を覆した男

 青木が10号を放ち、新庄、松井、井口、城島、福留に次ぐ日本人6人目となるMLB1年目での二桁本塁打を達成しました。これは日本人打者にとっての快挙となります。その理由を探ってみたいと思います。なお、青木の成績は日本時間2012年9月27日の段階での成績を使用致します。また、本記事ではパークファクターやチーム事情についての考慮はしておりませんのでご了承ください。パークファクターの影響は今後別なところで考察したいと思います。

 実は3月に日本人の本塁打率の減少を考察したことがありました。その中で、過去の右投げ左打ち野手はHRを打ちにくく今シーズン、過去のレートに当てはめると青木は400-550打席で1本程度の本塁打となり、当時はまだレギュラーを確保する事も確約されていた訳ではないので今シーズン中に本塁打を見る事は厳しいと考察しました。その考察は見事に良い方向に打ち砕かれた訳です。今回はより詳細に青木について考察しましょう。

 まずは先回(3/6)に考察した際に使った打席/本塁打の表を使って他の日本人との比較をしてみたいと思います。スタンダードにな表です。

NPB最終年 MLB1年目 割合

名前 打席数 本塁打 本塁打率 打席数 本塁打 本塁打本塁打率比

松井秀 623 50 12.46 695 16 43.44 28.68%

福留  348 13 26.77 590 10 59.00 45.37%

イチロー 459 12 38.25 738 8 92.25 41.46%

岩村  621 32 19.41 559 7 79.86 24.30%

川崎  655 1 655.00 112 0 #DIV/0! #DIV/0!

               

城島  463 24 19.29 542 18 30.11 64.07%

井口  574 24 23.92 581 15 38.73 61.75%

新庄 549 28 19.61 438 10 43.80 44.77%

               

松井稼 655 33 19.85 509 7 72.71 27.30%

TSUYOSHI 692 11 62.91 240 0 #DIV/0! #DIV/0!

               

青木  643 4 160.75 557 10 55.70 288.60%

 前回同様、上段が右投げ左打ちの打者、中段が右投げ右打ちの打者、下段が右投げ両打ちの打者、そして青木です。これを見ると青木が突出している様子が良くわかります。前回説明した通り、右投げ右打ちの打者の方が圧倒的に本塁打は打ちやすく、スイッチヒッターが非常に不利で、右投げ左打ちの打者はやはりスイッチ程では無いにしても不利である事がわかります。本塁打率自体は城島、井口、松井、新庄に次ぐ5位で、福留とも余り大差は無くどちらかと言えば平凡な成績です。しかし、前年比を見ると実に288%とほぼ3倍近いペースで本塁打を放っていることがわかります。

 これは何を示しているのでしょうか。考えられることは

1.純粋にパワーが増し、長打自体も増加しているので長打が増え、それに伴って本塁打も増加した

2.本塁打を積極的に狙い、他のスタッツを無視したアプローチに変更した。

3.NPB最終年の2011年が不調だった。

 の3点が挙げられるのではないでしょうか。それぞれ検証していきたいと思います。

 まず2に関してはアプローチは当然変更しているでしょうか、打率等のスタッツではそこまで変化が見られないため、本塁打だけを闇雲に狙ったアプローチになったと言う事は否定しても構わないと思います。

 次に1について検証してみます。これもまた他の日本人打者と比較し、そこからパワーが増加したと考えても構わない、と言う根拠を探していきたいと思います。以下の表をご覧ください。

NPB最終年

名前 長打率 IsoP 長/安 長/席

松井秀 0.692 0.358 0.467 0.125

福留  0.520 0.226 0.443 0.101

イチロー 0.539 0.152 0.229 0.076

岩村  0.544 0.233 0.359 0.098

川崎  0.327 0.060 0.168 0.041

         

城島  0.557 0.248 0.394 0.108

井口  0.549 0.216 0.353 0.105

新庄  0.491 0.213 0.366 0.095

         

松井稼 0.549 0.244 0.408 0.111

TSUYOSHI 0.482 0.136 0.248 0.074

         

青木  0.360 0.068 0.159 0.042

MLB1年目

名前 長打率 IsoP 長/安 長/席

松井秀 0.435 0.148 0.330 0.085

福留  0.379 0.122 0.295 0.064

イチロー 0.457 0.107 0.207 0.068

岩村  0.411 0.126 0.271 0.068

川崎  0.206 0.010 0.050 0.009

         

城島  0.451 0.160 0.427 0.081

井口  0.438 0.160 0.324 0.079

新庄  0.405 0.137 0.318 0.078

         

松井稼 0.369 0.097 0.328 0.081

TSUYOSHI 0.249 0.023 0.020 0.004

         

青木  0.440 0.151 0.352 0.090

割合

名前 長打率 IsoP 長/安 長/席

松井秀 62.86% 41.34% 70.57% 67.80%

福留  72.88% 53.98% 66.49% 64.04%

イチロー 84.79% 70.39% 90.32% 88.85%

岩村  75.55% 54.08% 75.64% 69.20%

川崎  63.00% 16.67% 29.81% 21.66%

         

城島  80.97% 64.52% 108.50% 75.17%

井口  79.78% 74.07% 91.78% 75.74%

新庄  82.48% 64.32% 86.77% 81.95%

         

松井稼 67.21% 39.75% 80.43% 72.27%

TSUYOSHI 51.66% 16.91% 8.08% 5.65%

         

青木  122.22% 222.06% 221.70% 213.78%

 長打率は通常通りです。IsoP長打率-打率で純粋なパワーを示した指標です。長/安は長打数/安打数で全安打数に対する長打の割合です。同様に長/席は長打数/打席数で打席数に対する長打が発生する割合を示しました。

 クレジットの通り、最初の表がNPB最終年の成績を示した物、2番目がMLB1年目の成績を示した物、最後がMLB1年目/NPB最終年でどれくらいに変化したかを示した物です。

 さて、NPB時代の成績を見ると青木は川崎と並んでほぼ最低級の成績を残しており、西岡よりさらに下の成績であることがわかります。しかしMLB1年目を見ると、長打率イチロー、城島に次いで3位。松井・井口よりも上に位置しています。さらにIsoPでもやはり松井・イチローを超えて城島・井口に次いで3位。長打の安打に対する割合は城島に次いで2位、そして長打の打席数に対する割合は過去の日本人で第1位に輝いております。さらに率に換算すると(率/率ではあるものの)長打率自体が120%超、それ以外は200%を超える値が出ていて相当優秀です。ここはかなりパワーがついた事がわかるのではないかとも思います。特に長打を打つ力に関してはNPB時代最高でも20本塁打だった彼が松井稼頭央イチロー、岩村を超え、松井や城島と方を並べる程の能力になっていることからもわかると思います。

 最後に彼が2011年には調子が悪かったのではないか、と言う仮設を検証してみたいと思います。以下の表をご覧ください。

名前 打席数 本塁打 本塁打

11 643 4 160.75

10 667 14 47.64

09 642 16 40.13

08 500 14 35.71

07 652 20 32.60

06 680 13 52.31

05 649 3 216.33

04 16 0 #DIV/0!

 まずは本塁打を打つ能力に関してです。2011年から「統一球」と言う名のやたらと飛ばないボールをNPBが採用したことにより本塁打がものすごく減少してしまったので一概に比較する事は不可能ではあるのですが、以前は30-50打席に1本程度のHRを打てる能力を持っており、これから比較すると大体55-6打席に1本のHRと言う事はレート通りになるのかと思います。しかしながら、飛びにくい打球というのはMLBでも一緒なのでやはり長打を打つ能力がやや上がったと考えても構わないでしょう。

  長打率 IsoP 長/安 長/席

11 0.360 0.068 0.159 0.042

10 0.509 0.151 0.282 0.088

09 0.444 0.141 0.255 0.064

08 0.529 0.182 0.312 0.096

07 0.508 0.162 0.249 0.074

06 0.439 0.118 0.219 0.062

05 0.417 0.073 0.163 0.051

04 0.2 0.000 0.000 0.000

 こちらも本塁打ほどでは無いにしても統一球の影響を強く受けており、不調であった事がわかります。

 結論として、青木は日本人の常識を覆す長打を量産した。その要因として統一球もあり11年が不調で、それが元に戻ったこと、さらに同時に飛びにくいボールでもしっかりと長打が打てるようにアプローチを変更したり、パワーを増したりして長打を打つ能力が上がったことが挙げられると思います。また、彼本来が持っているコンタクトの巧さも相まって今年の好成績につながったと考えられます。それでも川崎は対応しきれていない事を考えると、やはり今後誰にでも当てはまる訳ではないと言う事がわかると思います。

 今後も彼の活躍に期待すると共に、彼に続く存在が日本人野手で出現すると良いですね。

 TBは今日勝ってPOへ首の皮一枚、と言ったところでしょうか。。。