Rayを釣りたくて III

フロリダ沖に降り注ぐ栄光の光の中で舞い踊るトビエイを釣り上げる事を望むブログ。スポーツナビ+閉鎖に伴ってIIIとなって引っ越しました。旧記事で画像がほしい記事があればコメントいただければ、気づき次第対応します。

本塁上でのクロスプレーの是非について

 昨日、松山で行われた阪神-ヤクルト戦で三塁走者のマートンがヤクルトの田中捕手に対してタックル、その結果マートンはアウトになり、田中捕手は鎖骨骨折という重症を負ってしまいました。

 MLBでもサンフランシスコ・ジャイアンツの若きスラッガー、Buster Poseyが(腓骨)骨折と足首靱帯断裂という大怪我を負ったことやその後も相次いだランナーのタックルからの怪我で、日米でともに捕手へのタックルを禁止すべきであるという機運が高まりつつあります。

 このことについて手前味噌ながら少々書いてみたいと思います。

 なお、本記事では2塁付近で発生するいわゆるゲッツー崩れを狙うプレーは全く性質が違うものであるため、議論の対象にしていません。ご了承ください。

 まず、私が主張したいのはタックルは「(捕手と走者を守る上で)もっとも安全」な方法である、ということです。ただしこれについては条件があります。その条件は以下の1点だけです。

・捕手も走者もお互いもっとも安全にプレーをするためにタックルをし、それに対して備えることを理解する事。

 ではその「備え」とはなんでしょうか。二つ、例を挙げてみたいと思います。

 まず相撲について。相撲はもちろんお互いに「タックル」をして力を比べる競技です。しかしながら相撲ではお互いの最初の立会が原因で怪我をすることはまずありません。年間で6場所90番、稽古も含めたらその何十倍も立ち会いを行っているにも関わらず、です。もちろん防具も何もつけていません。接触の回数が本塁上でのクロスプレーとどちらが多いかは議論するまでも無いでしょう。

 相撲でどちらかの力士が怪我をするパターンは大体においてお互いが技をかけあった結果として、関節等に無理な力がかかることが原因であり、それは勝負が決する時に起こることが大半です。例えば変な風に膝をついてしまった、などです。

 相撲でなぜお互いが怪我をしないか、と言ったらお互いが当たることを了解した上で、当たられることに対して準備を怠っていないからです。相撲は攻撃では無く、いかに相手の力をうけきるか、の競技(便宜上こうします。)であると言われますが、これがその要因です。また、お互いにあたる時には頭に向かって頭で当たったり、拳を突出したり、といったことはせず、基本的には胸で当たるか、腕で当たるか、肩で当たるか、しか選択肢はありません。頭であたる時も必ず相手の肩や胸に向かって頭で当たります。それがお互い脳震盪など重大な後遺症を残すような怪我の防止の最大にして最高の効果をもたらすものだからです。

 もう一つ例はアメリカンフットボールの例です。アメリカンフットボールはやはり野球とは比べものにならない程の接触を伴うスポーツです。特にラインと呼ばれるセンター・ガード・タックル・エンドの選手達はすべてのプレーでお互いに接触を、しかも4人対6人といった形での非常に近い位置関係での接触を多発させます。しかしながら本塁上での接触に比べると怪我の発生頻度は極度に低いです。

 また、クオーターバックやランニングバックをサックと言って、体を使って止めに行くラインバッカーの選手達も全速力でぶつかりあっているにも関わらずその割には怪我が発生しません(割合として)。それはなぜなのでしょうか。もちろん相撲の様お互いが接触することを了解しているというのもあります。でもそれだけではありません。

 アメフトではボールを持っていない、向かってくる選手に対してはブロックと言って、相手の体やジャージをつかむこと無く、自らの体を張って進路妨害をすることしかできません。この時、手は必ずパーに開くか、もしくは腕を使わない形で胸の前でたたむ必要があります。

 また、ヘルメットを相手にぶつけるスピアータックルと呼ばれる当たり方もタックルする側、される側ともに大変危険を伴うため非常に厳しく禁止されています。2010年10月のフィラデルフィア・イーグルスアトランタ・ファルコンズの試合(たまたま生で観てた)でもスピアリングが発生し、規制を強化しました。フェイスマスクを握る反則も故意であるか否かに関わらず違反となっています。

 このように体の接触を認めているスポーツは接触に対して非常に厳しいルールを持たせています。(逆に体の接触を認めてながらルールが少ないスポーツはサッカーと野球くらいなのではないでしょうか。)

 さて、ではどうすべきなのでしょうか。

 捕手は、野球のルール上、インプレーの間、ボールを持ってないうちはホームベースの三塁側半分のフェアゾーンに入ることができません。これはランナーの本塁に突入する進路を見えるようにしておくと同時にむやみな体勢での接触を防ぐためのルールです。逆に言うと、ボールを持ってランナーが来ることがわかっていて、接触の可能性がある、その覚悟を持って初めてホームベースの三塁側に入ることが可能だ、ということです。その時点で捕手はありとあらゆる接触に対する備えをする必要があります。

 さて、今回の件とPoseyの怪我した時の件を見てみましょう。ランナーはどちらも腕を胸の前でたたみ、心臓への衝撃を和らげる形で、しかも頭や肩からではなく胸から、捕手の胸、体の中心をめがけて一直線にタックルをしています。間違っても手を突き出したり、相手への衝撃を大きくする目的でのタックルではありません。

 この時ランナーが仮に足や手からホームベースをめがけて滑っていたらどうなるでしょうか。手から滑って、仮に間違ってスパイクで踏まれちゃったら手の甲を骨折でしょう。足首を相手の体にひっかけてしまったらやはり靭帯断裂になるでしょうし、膝周りの靭帯や関節を痛める結果にもなりかねません。相手の体にタックルすることで確実に自分の体を守りつつ、一か八かの得点の確率を上げています。マートンは以前に足から滑って怪我した、とも語っていますね。

 逆に捕手の方はどうでしょう。田中捕手は明らかに接触に関する覚悟が無いまま、横向きにマートンのタックルを受け、あろうことかマートンを巴投げかのごとく自分の体をマートンの体の下に潜り込ませました。あの形ではどう見てもマートンが怪我しやすいです。つまり、田中捕手は自らの体勢が悪かったばかりか、自分の怪我だけでなく、マートンまでも怪我させようとした形になっています(もちろん故意ではないのはわかりますが)。タイミングが微妙だったり、タックルを受ける覚悟が無いのであればホームベースの三塁側に入らなければ良いだけです。

 Poseyの場合は少し事情が違います。Poseyは相手が向かってくることを理解して自らも腕を前に畳み込み、相手のタックルを受け止める格好になっています。しかし、下半身がそれに追従できていなかった。そのため正座するような形になり、両足を不自然に伸ばす形になってしまいました。ただ、やはり、ちょっとだけ、タックルを受け止める準備ができていなかったともとらえられます。

 お互いがきちんとタックルする格好であれば、怪我はまず発生しない(せいぜい打ち身とか?)でしょうし走者も捕手もその覚悟を持って当たることが、怪我を防ぐ第一歩なのではないでしょうか。たとえ禁止してもお互い勝負が、生活がかかってる場面なのでどうしても接触は無くならないでしょうし、だったら安全に接触することを考えるべきです。そこら辺の意識が日本の野球には欠如してるいかなぁとは思いますし、今後は捕手が、自ら覚悟をもって受身を取ることを、願ってやみません。

 

 ちなみに私は野球ではいつも(でもないけど)捕手をやっていて、相手からの接触はどんな形であれ覚悟を持って臨んでいて、ホームベースをカバーする代わりに、どんなスライディングもタックルも受け止めていました。そのぶんたまに飛ばされたけど、大怪我はまずないです。ただし必ず腕は胸の前で畳んで頭を下げた形で当たっていました。下手に斜めから滑ろうとすると本当手首とか足首をやっちゃうので、まともに当たった方がはるかに安全です。