Rayを釣りたくて III

フロリダ沖に降り注ぐ栄光の光の中で舞い踊るトビエイを釣り上げる事を望むブログ。スポーツナビ+閉鎖に伴ってIIIとなって引っ越しました。旧記事で画像がほしい記事があればコメントいただければ、気づき次第対応します。

観戦と應援 the national pastime

 連載の途中ですが、たまにはこういったネタを挟んで行こうと思います。我らがTampa Bay Raysはここまで12勝10敗でNYYに次いでALE2位と怪我人だらけな中でも快調に試合をこなしております。その怪我している選手達もぽつぽつ戻りつつあり、なかなか楽しいことになりそうです。前にも言ったかもしれませんが、TBは今年は再建期と言うよりは、再建しつつ、POを狙える陣容も維持しているという方が正しいと感じます。確かに長打力はほぼ無く、現在もルーキーや若手頼みですが、しっかりと出塁して、確実に得点を拾う形ができています。投手陣はPriceが抜けたとしてもまだまだリーグトップクラスの実力は維持しています。地味であったり実績が無かったりする選手が多いですが。一方で、先発投手のバックアップを確保しなかったことが大きく響いた序盤でもありました。そこを五分以上で切り抜けているので上々と言えるでしょう。

 さて、前置きが長くなりましたが、本題に入りましょう。先日、ネットの記事で神宮の建て替えについて、一つの文化遺産がなくなる寂しさがある、という内容の物を見かけました(Number web版の記事だったと思います)。

 確かにそれは否定し難い事実ですが、私自身は神宮の建て替えには賛成です。醜悪な人工芝と平べったくて観戦には不向きなスタンドがどうしても好きになれません。大都会の屋外球場と言うことで独特の趣はあって、夏の夕暮れとかは雰囲気がありますが、大きく移動する訳ではない建て替え後の球場にも引き継がれるでしょうから(密閉ドーム建設と言う愚行を犯さなければ)、問題はありません。

 そういうことを考えて、友人と話していて今更気づかされたことがありました。

 それは日米の野球観戦の違い、ということでした。

 日本の野球観戦のスタイルは、実際は観戦ではなく「應援」と言っても過言ではないでしょう。外野席に私設の応援団なる人々が陣取って、下手なラッパや太鼓の鳴り物によくわからないチャントをしたり、旗を振ったりしています。個人的には球団主体ではないこの應援が嫌でNPBを観なくなったという理由はあるのですが、とにかく日本の野球観戦のスタイルはこの應援が基本に置かれています。野球を観に行く、ではなく贔屓のチームを應援しに球場に行く、というスタイルです。

 この鳴り物スタイルは元々は高校野球、もっと言えば大学野球、それも東京六大学野球の早稲田-慶應のライバル関係にあると言えます。ただし、高校野球大学野球だと吹奏楽部が部活としてやっている分、はっきり言ってレベルの高さはプロの應援の比じゃないですね。もっともブラスバンドがフルで編成できるという強みもあります。

 私は高校時代應援を専門にする部活に入って学ランでバリバリやっていましたから、鳴り物應援を否定する物ではないです。ただ高校の部活だと、明確に同級生の應援、より良い應援席を作り出す事務方としての仕事、という意味で應援する理由づけはあります。それでも何のための應援なのか、と葛藤することもしばしばですが。

 ところがプロの應援の場合は完全な應援団であって、球団公認とはいえ私設のものですから、應援している人達の自己満足となっています。

 遠いところだと、そういった自分の贔屓チームの應援に徹することで、野球界全体を見渡せない、国際野球関係への嫌悪、罰ゲームと堂々と言い放つ、単なる契約切れの選手がFA(自由契約)になって移籍しても強奪という、そういう考え方・意見につながっていると言えるでしょう。

 賛否も長所ももちろんあるでしょうが、そういう文化だということです。

 上記のような文化が中心であるため、野球場の魅力と言うのは球団の大きな長所にはなり得ません。むしろ、日程がずれないドーム球場が求められている理由であると考えられます。

 ではMLBには一切應援が無いのかと言うと、それは違います。MLBでもかなり激しい應援はあります。プレーオフともなればスタジアムはホームチームの應援一色に染まり、ウェーブが舞い、盛り上がってくれば全員が立ち上がってタオルを振り回したり、大声を上げたりします。鳴り物こそありませんが、球団主体でCharge!!!やMake Noise!!!等スクリーンとオルガン等で盛り上げます。スタジアム内の騒々しさはNPBに負けていません。

 とはいえ、それでもMLBは外野席でも内野席でも落ち着いて野球を「観る」環境にあります。應援をしに来なくても、野球をふらっと観に来れる感じです。ビール片手にアフター5のおしゃべりを楽しみに来ることができるのがMLBの観戦スタイルです。ですから、野球場の雰囲気が良いと多くのお客さんが観戦に来ますし、それが大きなファクターとなっています。アクセスも悪く、密閉式ドーム、人工芝などと言う某T fieldの様な醜悪なスタジアムにはお客さんは入りませんし、いち早くネオクラシックスタイルの球場にしたBALは今も大勢のお客さんが入ってきます。夏の夜を優雅に過ごすための風物詩となっているのです。これこそがNational Pastimeと呼ばれる所以ですね。夏は片手にビールでのんびり野球観戦なのです。

 NFLなんかだとより激しい應援があって、それこそ應援のための観戦と言うイメージもありますが、野球はよりのんびりしているというイメージで間違いはなく、だからこそ視聴率が下がっても、人気が落ちていると言っても、MLBの市場規模が拡大しているのはそういう文化・風物詩的な人気があるからです。日本の地元の夏祭りや縁日に近い感じですね。NFLNBAに人気では押されていても問題は無いのです(もちろん時期がずれているのもある)。地元のお祭りや縁日の感覚ですから、お祭り世界一決定戦!!!などと言われてもピンとこない人が多く、国際化に消極的なアメリカ本土の文化があるとも言えるでしょう。

 日本では昔は夏はお父さんがテレビで巨人戦を観ながらビール片手に管を巻くというMLBスタイルと同じような文化がありました。視聴率が取れないことを理由に地上波から野球中継が激減し、テレビであってもお金を払って、球団を選んで中継を観るというスタイルに移行していった結果、より贔屓チームの應援のための應援に移り変わった様にも感じます。應援が中心で、球団主体のサービスも少ない今の野球場にはふらっと遊びに行くこともできませんし、應援が嫌だと内野席に座るしかないので、必然的に観戦のハードルは上がります。熱心に應援してくれる人が多いことは球団としてもありがたいでしょうけれども、気軽に野球を観られる環境がありません。ここら辺がなんだか残念だと感じるところです。

 

 そういったところが日米の野球観戦の文化の違いなのでしょうね。街の縁日的な雰囲気の盛り上がり方をするアメリカでの観戦スタイルと應援のための盛り上がりをする日本の應援スタイル。ただ、日本でも気軽に仕事帰りに野球を「観戦」できる様な場所も欲しいなぁとは思います。アメリカと違ってせっかく公共交通機関が発達しているのですから、より観戦できる環境はあると思うのです。アメリカだとほとんど車で来場するしかないですから、ビール片手にと言うのは難しいですし、ただでさえ薄いアメリカンビールのさらに薄い「ミラーライト」や「バドライト」が蔓延る理由ですし、それも1-3回の売り上げが大半なのです(中盤以降はアルコール抜いて、車で帰る)。さて、建て替えられる神宮球場は急角度な多段式スタンドと天然芝のかっこよくて気持ちよく野球が観られる球場になることを期待します。というところで今日はおしまいにします。今後はまた、連載に戻る予定です。