【連載 第8回】打者の運と実力を探る 第三章 ~運を左右する要素は何か~
[第三項:三振・四球と運]
続いて運が良い選手は三振が少ない傾向がある、あるいは四球が多い傾向がある、等「球を見極める能力」や「バットコントロール」と、飛んだ打球をヒットにしやすいかどうかを確認します。
いずれも横軸に運(右に行けば幸運、左に行けば不運)を取り、縦軸に各指標を並べます。サンプルは02-14年に規定打席をクリアした全打者です。
まずは三振率(K%=三振/打席*100)です。
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この通り全く相関はありません。相関係数も0.2程度と相関が無いことを示しています。
続いて四球率(BB%=四球/打席*100)です。
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三振よりもつぶれた格好になっているのはBondsが飛びぬけた値を三つ出してしまっているせいですが、こちらも相関係数0.13と相関関係はありません。つまり、球をよく見極められるからと言って幸運になるとは限らないということです。
上記のとおりのため、BB/K(四球数/三振数)を調べてみても
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ご覧のとおりBondsがおかしい数字をたたき出していて(通常は三振数>四球数なので0-1の間に収まることが多い)、変な形の散布図になってしまっていますが、相関係数0.03とこれまでに見たことが無いほどの無相関に近い数字となりました。
この通り、三振や四球と幸運はほぼ相関が無いということが分かります。つまり三振が少ない打者、四球が多い打者を選ぶことと、幸運な打者を選び出すこととは一致しないということでもあります。
[第四項:パワーと運]
球のみきわめではないのであれば、次はパワーとの相関を見ていきたいと思います。パワーがあればHRが増えるだけではなく打球速度が上がりますから、そのような理由づけをすれば相関性があるようにも思えるからです。
まずはパワーの代表格、本塁打数で見てみます。
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この通り全く相関がありません。相関係数0.12ですから、無関係ともいえるレベルです。
次に純粋なパワーを示すと言われるIsoP(Isolated Power:長打率-打率)を調べてみましょう。
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こちらも相関係数0.2と全く相関がありません。
さらにHR/FB(HR数/外野フライ数*100)との比較でも
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予想通り相関は無く、相関係数0.17と低い値となっております。
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ただし、長打率とは0.41と弱いながらも、これまでの各種指標よりは強めな相関があり、散布図もそれを支持する様な形となっています。これについては長打率が高い選手が幸運であることが多いのではなく、逆に幸運な選手の凡打だったはずの打球がヒットになったり、その逆が多く発生したため、と説明した方が正しいと言えるでしょう。長打率から打率を引いたIsoPでの相関が無いことが、それを裏付けています。
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二塁打数
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三塁打数
と、どちらも相関がありません。二塁打に関しては0.33と非常に弱い相関があるのではないかと見えますが、二塁打が多い選手は運が良い、あるいは運が良いと二塁打が増える、とは言い切れない数字です。
そのため長打数でも、安打数に対する長打数の割合でも相関性は見えてきません。
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これらのことから、幸運な選手と言うのは決してパワーによってもたらされているものではない、ということが分かります。パワーがある選手が幸運になりやすい訳ではないのがよく表れています。
[第五項:スピードと幸運]
Ichiroの幸運の要因として多く語られるのが、彼の内野安打の多さ。確かにスピードがあれば、ぼてぼてのゴロを安打にできるほか、メリットは大きそうです。
まずはスピードの代名詞的存在、盗塁数(及び盗塁企図数)との相関を見てみます。
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散布図のとおり、盗塁数・盗塁企図数とも全くと言ってよいほど相関性は無く、相関係数も0.18と他指標と同程度となっています。
次に内野安打を見ていきます。
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この通り、内野安打が多くても幸運になるとは限らないという結果が得られました。相関係数は0.24と他の指数よりは少しだけ高い値ですが、相関性があるとは言い切れません。ただし、一塁への到達速度はルール上確かにメリットがあるはずですから、打球傾向等その他の関係でぶれてしまっている可能性は否定できません。一方で、内野安打の多い選手が一概に幸運であるとは決して言いきれないという事実でもあります。
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最後にスピードとは無関係ですが、内野フライ率(内野フライ/全フライ)を見てみると相関係数0.30と弱いながらも…と言う数字が出てきます。内野フライが多い選手は幸運になりにくいという話ですね。これはフライの安打率を15%で計算する中で、内野フライが多いとここが下がってしまうということなのかもしれません。とはいえ非常に弱い相関ですのでこれも当てにはなりません。
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なお安打数とは相関係数0.46とこのサンプル数にしてはそれなりに良い値が出ており、やはり安打数≒打率は幸運にかなり左右されるものであることが分かります。
以上のとおり、様々な指標で見ても、あまりにも分散しすぎており、綺麗な相関を求めることができませんでした。とはいえ、パワーもスピードも幸運を引き寄せるとは限らないツールであると言えるでしょう。ただし、例によって単年度の幸運と単年度の各種指標での比較であるため、全体的にサンプル数が足りない問題が発生しがちであることは否めません。もっともそれも1,800を超えるサンプル数で補っていると考えているので、そおれなりな信頼は出来るのではないかと思いますが。今後はさらに深く掘り進めていく予定です。