Rayを釣りたくて III

フロリダ沖に降り注ぐ栄光の光の中で舞い踊るトビエイを釣り上げる事を望むブログ。スポーツナビ+閉鎖に伴ってIIIとなって引っ越しました。旧記事で画像がほしい記事があればコメントいただければ、気づき次第対応します。

【連載 第9回】打者の運と実力を探る 第三章 ~球場と幸運~

本稿は連載をしているひとつながりの記事です。

過去記事についてはリンク先からご確認ください。

[第六項:パークファクターと本塁打]

 パークファクターと言う言葉があります。ご存知の方も多いでしょう。野球は球場の大きさがそれぞれバラバラであり、当然とある球場ではホームランだった当たりが、フェンス直撃のヒットだったりとなったりします。この偏りを表す指標がパークファクター(以後PF)となります。

 弊ブログではこれまでも何回かこのPFについての考察を行いました。それについては以下のURLをご確認ください。

・やっぱBOSズルいよね。もしかして球場のせい?

・Chicken and Egg 運が良いからパークファクターが低いのか、パークファクターが低いから運が良いのか、それが問題だ

・多分各球場での運はパークファクターによって左右されている 少なくとも本塁打に関しては

 

 これらの記事では本塁打に関しては明確にPFは存在し、上がったフライのスタンドに入る確率は球場ごとにかなり左右される、と言う結論が得られました。ですので球場によって打者の運が良くなりやすい(凡フライでもHRになる)球場、運が悪くなりやすい(HR性の当たりでもスタンドに届かない)球場があるということでした。

 当たり前と言えば当たり前なのですが、同様の論調を見たことが無かったので実施した物でした。結果的に面白い結果が得られました。

 PFを求める式については以下の通りになります。(ホームランの場合。)

PF={(A球場でのB球団本塁打+A球場でのB球団被本塁打)/A球場での試合数}/{(A球場以外の球場でのB球団本塁打+A球場以外の球場でのB球団被本塁打)/A球場以外の球場での試合数}

[第七項:パークファクターとBABIP]

 本稿では本連載と関連される、(運不運に因る)安打になりやすさと各球場についてを調べることとします。つまり、xBABIPとBABIPの差が大きくなりやすい球場があるのか、それともその差は単純な運不運と言う話なのかを調べるものです。

 方法としてはまず、各球団の投打それぞれについて、ホーム&アウェーのBABIP及びxBABIPを調べます。当然そこにはLuckが発生してきますが、本連載で示した通りLuckが高い打者・低い打者と言うのは存在するので、さらにホームアウェーのLuckの差をとります。

 なお、投球の方は、「アウェーチームの打者の運」として調べるので、打者のLuck(BABIP-xBABIP)を採用します。

 これについて各年度、それと年度間の通算を調査します。調査年度は最大で2002年-2014年の13年間です。これはFangraphsのBatted Ballの項目があるのが02年以降となるからです。また、各球団のうち、球場の変更・改修があった場合は、別扱いとしています。そのうち最新に更新されて以降5年以上が経過している場合はサンプル数が十分と判断し、それ以前の球場については調べません。5年未満の場合はそれ以前の物を採用し、参考情報として最新のものも調べております。

 最後にこれらのサンプルのうち通算記録を抜き出し、縦軸に投手(アウェー打者)のホーム・アウェーのLuckの差、横軸に打者(ホーム打者)のホーム・アウェーのLuckの差をプロットし、散布図を作成、相関を見ていきます。

[第八項:Luckの分布]

 では、その最終的な結果を確認します。

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 ご覧の様に右肩上がりのグラフが描けました。この結果からわかることはホームチームの打者が幸運になりやすい球場はアウェーチームも幸運になりやすく、その逆もしかりという傾向が見て取れる、と言うことです。

 つまり、明確に球場によってLuckの基準値が変化し、打率(もちろん被打率もだが、本稿では解説しない)が変化し得るということです。相関係数は0.665とそこそこ強めの値が出ており、一定の傾向がみられることが分かります。このことからアウェーの打者は不運だけどホームチームの打者は幸運と言うような理不尽な球場は基本的に存在しないと言えるでしょう。

 ただし、見てのとおりかなりサンプルはかなり散らばっております。これは球場別に働く運不運(≒PF)以上に何らかの要素(≒個別の運?)が大きく働いていることを示しています。つまり球場によって影響するヒットになりやすさの運不運はそこまで大きな影響を及ぼさないということでもあります。

 また、原点と比較してグラフがかなり左下の方にずれていることが分かるかと思います。これはホームの打者は幸運になりがちで、アウェーの打者が不運になりがちだということを示しています。アメフト程露骨ではありませんし、理由は不明ながら、全体的にホームゲームアドバンテージとも言える様な傾向があることが見て取れます。これ以上は因果律的になるので考察はしませんが、そのような傾向があることは観測の結果として事実です。

 先述のとおり、各球場での運不運はそれなりな相関性を示す一方で、かなり強くそれ以外の要因に引きずられていることが分かります。5年以上のサンプルを集め、過半数の球団で13年分のサンプル数、8割の球場で10年以上の通算でこれですから、それ以下のサンプル数は一層当てになりません。

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 13年に改修されたSafeco Field、Petco Park、12年開場のMarlins Parkのデータを含めると相関係数が一気に下落します。相関係数.665が.588となるのです。わずか2-3年のデータでは全体的な傾向は見えません。次項以降で行う各論でも記載しますが、これに引きずられることが明らかなPFは数年程度のサンプル数では明らかにサンプル数が足りないことが分かります。ですので、3年程度のPFを持ってこられても私が信用しないのはそのためなのです。

[第八項:打者が幸運な球場・不運な球場]

 では打者が幸運な球場・不運な球場はどこになるのでしょうか。

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 大まかではありますが、このように分けても問題は無いでしょう。見てわかるとおり、突き抜けて打者が幸運になりやすい球場が2つ、不運の方は5-6球場があります。一球場変なところに突き抜けていますが、これも一応不運サイドに含んでしまって構わないでしょう。その他22球場は明確な運不運が見えず、ナチュラルな球場であると言ってもほとんど構わないレベルだと考えられます。

 これらの球場はどこにあたるのでしょうか。

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 もっとも右上、打者に幸運をもたらす球場は何とびっくりBostonのFenwey Parkでした。ホームの打者で+0.028、アウェーの打者でも+0.010のLuck差ですからかなりの物ですし、明確に打者が幸運になりやすい球場と言えるでしょう。これはBOSの打者でアウェーでは普通の打者がホームでは上位1割に入るくらい幸運な打者になってしまうレベルです。理由づけは不明で因果律的になるのを避けたいので多くは記載しませんが、グリーンモンスターは一つの要因となっていることを否定することは難しそうです。

 Fenweyとほぼ同着で打者有利であった球場はホーム打者で+0.027、アウェー打者で+0.007を記録したCoors Fieldでした。ここは打者有利として非常に有名な球場ですからこの着順でも納得です。むしろFenweyでは打者はCoors並みに幸運になりがちということは驚きと言えるでしょう。

 一方で最も不運になりやすい球場は2012年オフ改修前のPetco Parkでした。ホームの打者が-0.011、アウェーの打者も-0.017と非常にヒットになりにくい球場であることがわかります。ここは打者地獄として有名な球場ですから納得の行く数字です。続いてホームの打者が-0.004、アウェー打者で-0.016を記録したO.co Coliseum。ここも打者が打ちにくいことでお馴染みの球場ですね。さらに番外地にいるのがSTLのBush Stadium。ここはホーム打者は+0.004ですが、アウェー打者が-0.018とホームの打者とアウェーの打者で大きく食い違いが発生しました。

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 詳しく見ると確かにSTL投手陣はホームでは強烈な幸運に恵まれていると言える数字です(打者基準での記事のため投手目線ではマイナスが幸運)。一方打者はホームでは普通の数字か、かろうじてやや不運ですが、アウェーではより不運(例年不運である)なため、結果的にホームではプラスの数字となっています。これも理由は不明です。幸運な投手が揃っているとも言えるかもしれません。ややゴロ率が高いため、守備力の影響も否定はできないかもしれません。いずれにせよ、06年から14年まで一貫して見える傾向であるということを考える必要があります。

 その次、STLに続くのが何とPhiladelphiaのCitizens Bank Park。ここはむしろ打者優位の球場として知られていて、特に本塁打が出やすい球場です。が、打たれた打球がヒットになるかどうかでは打者に不運な結果が出やすい球場だという結果になりました。

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 詳しく見てみると、投打ともにマイナスの数字がホーム・アウェー関わらず記録されていることが分かります。そもそもPHIの打者はホーム・アウェーに関わらず不運な傾向にあり、PHIの投手陣もホーム・アウェーに関わらず幸運な傾向にあるということが言えます。これまた理由は不明としておきます。また、本塁打が出やすい球場であることは間違いないですから、単にフィールド内に飛んだ打球がヒットになりにくいのだということを認識してください。そこの差はとても大きいです。

 さらに不運組に入っているのがほぼ同着でDodger Stadium(H-0.003/A-0.007)とCLEの本拠地Progressive Field(H-0.003/A-0.008)となります。Dodger Stadiumはやはり打者不利の球場として有名で、さらに近年はややニュートラルよりとも言われている傾向と合致しています。

 一方のProgressiveはやや本塁打が出やすい、基本的にはニュートラルな球場と言うイメージもありますが、実際は不運組に入るほどでした。

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 詳細を見てみると確かにマイナスの数値が多く見えます。特にホームのマイナス数は多く見えますので、やや不運になりやすい球場であると言えるでしょう。しかしここで注目は網掛けした06-08年の3年間です。ここを見ると打者のホームでのLuckが急上昇しており、アウェーでもしているのですが、全体的には平均プラスくらいの数字となっています。ちなみにホームでCLEの打者がプラスの数字を出したのはこの3年間だけです。また、投手陣の方もややマイナスですが07年には+0.021をホームで、アウェーでは-0.008を記録する様な変な記録を発生させています。このことがわずか数年でPFを議論する事の危うさを示しています。

 また、本塁打とは明確に違っていることが分かるでしょう。

 さて、ここまで議論してきましたが、Miller ParkやChase Field、Great American Ball Parkと言った名だたるヒッターズパークや、日本人大好きSafco FieldやAT&T Park、あるいはTropicana Field(疑問符がつきますが)と言ったピッチャーズパークの名前が出てきておりません。長くなりましたので次稿にしますが、やはり「本塁打のPFとヒットになるかどうかのPF」は明確に区別すべきだということと「数年間程度のサンプル数は全く当てにならない」と言う点がよくわかります。次はこの点から各球場を見てみましょう。