Rayを釣りたくて III

フロリダ沖に降り注ぐ栄光の光の中で舞い踊るトビエイを釣り上げる事を望むブログ。スポーツナビ+閉鎖に伴ってIIIとなって引っ越しました。旧記事で画像がほしい記事があればコメントいただければ、気づき次第対応します。

【連載 第10回】打者の運と実力を探る 第三章 ~球場と幸運~

 本稿は連載をしているひとつながりの記事です。 過去記事についてはリンク先からご確認ください。

[第9項:特徴的な球場の確認 球場の運不運には波がある]

 今回は少々長くなってしまいましたが前稿の続きとして球場と幸運への寄与を考察していきます。まずおさらいとして確実に球場によって幸運・不運の寄与はあるということ、ただし、PF単年度で見てしまうと明らかに波が大きいので、短期的なまとめでは信頼できないということ、それどころか13年のサンプル数ですら危ういというところでした。また、本塁打のPFとこのフィールド内の運不運のPFとは根本的に違う特性を持つものだということも説明しました。

 まずはこの波が大きなチームを確認してみましょう。

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 巷では打者有利とまことしやかに噂されるMiller Parkですが、この安打に関しては極々平凡な球場と言えます。むしろやや投手よりの傾向が出ているとも言えなくもない様な数字です。ここはちょうど良い形で幸運不運の波がある年があったので確認してみました。

 この表の見方ですが、基本的には一番右の欄を見ていただければ問題ないです。打者/投手のBABIPとxBABIPの差を取ったものがLuck、さらにそのLuckの差が一番右の欄でPFと関連があるところです。投手の欄はアウェーチームの打撃(なのでアウェーのアウェーが、MILがアウェーに行った時のホームチームの打撃と考えて構わない)と考えることとしているため、同じ式を用いており、+は打者が幸運、-が投手が幸運を示しています。

 網掛け部分がそうなのですが例えば打者サイドの10年と11年。いい感じで-0.006から+0.025と大幅な変更がありました。ちなみにこの時投手サイドは0.000→0.000ですから一方的に打者が幸運になった形と言えるでしょう。

 さらに投手陣の方を見てみると10年11年はいずれも0.000と安定していたものの12年に-0.012と(アウェーチームの打撃が)不運に、さらに13年には+0.023と今度は急上昇、おまけに14年には-0.034と急降下しています。単年度、あるいは短期間でのPFの議論の危険性を示していることが分かります。

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 前稿では打者が不運になりやすい球場の一つとして取り上げたDodger Stadiumですが、かなり乱高下する球場で毎年のように数値がプラスとマイナスを行ったり来たりしています。来年になると違う傾向を示すかもしれません。

 また、02-05年だけを見ると明確に打者不運な球場と言えますが、06-09年辺りはかなり打者幸運な球場ともいえ、短期間でのPFの議論をすることが如何に危険かがよくわかる形です。

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 これをグラフにすると顕著にわかります。

[第10項:その他一般的に投手優位とされる球場の運不運]

 では、その他気になる球場として一般的に投手優位、打者優位と言われる球場について調べてみましょう。但し、繰り返しますが、本稿はフィールド内に飛んだ打球の運不運について論じており、その球場が根本的にピッチャーズパークかヒッターズパークかは論じていません。本稿を基に、これまでの定説が間違っていた、とすることが間違いですのでくれぐれも気を付けてください。むしろ、PFを長期間かけて調べた方が圧倒的に正しい傾向を見て取れると考えられます。

 ではここまでに出てこなかったピッチャーズパークを4つ程見てみましょう。SEA Safco Field、SF AT&T Park、TB Tropicaba Field、KC Kauffman Stadiumの4つです。

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 まずはSafco Fieldから。ここは12年オフに改修工事があり、やや打者に有利なように改装したとのことなので、12年以前と13年以降では別のカウントとしております。改修後は2年分しかサンプルが無いため、あくまで参考程度ですが、運不運を見る限り大きく変化はしてないので構わないようにも見えます。結果はホーム打者が-0.002、アウェー打者が+0.004と30球団で唯一ホームアドバンテージが効かず、それどころか逆噴射している球場となりました。ここでは意外に思われるかもしれませんが、そこまで投手に幸運になるような数字は出ていません。その理由は簡単で、実はホームではずらりとマイナスの数値が並んでいるのですが、アウェーでもマイナスの数字が多くを占めていて、結果的にホームとアウェーの差が小さく、そのためホームでは不運であるとは言い切れない、ということになるのです。これについての理由も明言しませんが、単純に歴代のSEAの打者が不運系の打者が多かっただけなのではないかと思ったりもします。

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 このチームには稀代の幸運な男もおりました。今はMiamiにおりますが。彼から運が逃げて行ったのが2011年なのはご存知のとおりですが、それ以降急激に打者の運が下落しています。また歴代最多安打記録を作った04年は運が上がっていて、不調だった翌05年は下がっています。邪推でしかありませんが、飛びぬけた実力の持ち主は球団全体に影響を与える可能性があります。そもそも彼の打数は飛びぬけて多く、さらにHRも三振も四球も少ないですからBABIPにカウントされる打球の数は単純に1/9ではなくなるでしょうから、可能性としては0ではありません。ここは現状未調査としておきます。ちなみにSFのHR/FBも05年以降ガクッと下がるのですが、その理由はご想像にお任せします。確証はございませんので。

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 SFのAT&T Parkはホーム打者が+0.009、アウェー打者が-0.005と非常に綺麗にニュートラル+ホームアドバンテージと言う感じの結果になりました。少なくともフィールド内に飛んだ安打に関しては全くと言ってよい程、不運にはならないという結果ですね。左打者の本塁打が少ないことは事実でしょうけれども。

 また、SFの打者は割とホーム・アウェー問わずマイナスの数字が多く出ていて、これもSEAと同じく単純に運のない打者が揃っていただけの様な気もしないでもないです。ただし、これも不明です。

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 KCのKauffman Stadiumはホーム打者が+0.008、アウェー打者が+0.006とニュートラルか場合によってはやや幸運になりやすい傾向が見えました。このように、一般的に言われる内容と幸運になりやすいかどうかはまた別の問題である、というのがよくわかる球場の一つです。

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 TBは元々やや投手よりのニュートラルだと感じていたのですが、ピッチャーズパークと見ることもたまにありますね。とはいえ、弊ブログとしてはこの球場を取り上げない訳には行きません。

 ホーム打者+0.003、アウェー打者-0.012とイメージ通りやや投手よりのニュートラルと言うのが正しい印象となりました。PNC Park(H+0.003/A-0.012)、Citi (&Tax payer)Field(H+0.003/A-0.011)といったやや投手よりのニュートラル球場とほぼ同じ値がでました。注目は07-08年で、Miracle Raysの年は投打ともにホームで一気に幸運になっていますから、ここが大きく作用したということもできると思います。事実、TBが本当の強豪になったのはやはりPriceが戦力になった09年か10年以降と言う感じがあります。

[第11項:その他一般的に打者優位とされる球場の運不運]

 では続いて打者優位とされる球場でこれまで紹介してこなかった球場を見てみましょう。AZ Chase Field、TEX Globe Life Park in Arlington、CIN Grate American Ball Park、CWS U.S. Cellular Fieldの4つとしましょう。あまりヒッターズパークは見当たらない気がしますね。

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 まずはChase Fieldから。ホーム打者+0.014、アウェー打者+0.003と確かに打者が幸運になりがちではあります。とはいえこれだけではやや打者優位よりのニュートラルと言う域を出ない感じがあります。個別の年を見るとホームもアウェーも意外なほどマイナスが多く、単にアウェーで不運な感じがしないでもないです。何せ同じ地区のアウェーにSD、SF、LADと名だたる投手優位の球場がありますから。とはいえ、この影響も限定的だと考えると、ややわからないところではあります。全体的にはやや打者優位で動かないとは思います。

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 OAKと並んでよく名前が変わる印象のあるGlobe Life Park in Arlington。ホーム打者は+0.011、アウェー打者は-0.003と非常に綺麗なニュートラル球場と言う感じがします。確かに狭い球場で本塁打は量産されますが、それ以外の安打に関しては極々一般的な球場なのではないかと考えられます。

 昨年のTEXの不運に転落したことは、けが人続出で控えレベル、ルーキークラスの多用があったと思われます。やはりBABIPは実力にも引きずられることがあるのではないかと想像します。

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 CINのGABPことGrate American Ball Parkは打者優位とは言われておりますが、それは本塁打に限ったことではないかと思うもので、ホーム打者+0.001、アウェー打者-0.008はニュートラルからさらに投手優位の方にあるのではないかと考えさせられる数字です。これも度々言及したことと整合がとれます。なお、州をまたぐ本塁打を打てる唯一(?)の球場です。

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 ここもU.S. Cellular Fieldも本塁打が量産されることで打者優位と伝えられる球場です。しかしホーム打者-0.005、アウェー打者0.000とSEAと同じように珍しく逆転現象を起こした結果がでました。これはむしろ打者が不運になりやすい球場と言う印象で、本塁打とは関係が無さそうだとい感じがします。MIL、PHI、TEX、CINとここといい、狭くて本塁打が出やすい球場、特に右中間左中間のふくらみの少なく、フェンスの低い球場で本塁打が出やすい球場はむしろフィールド内では安打は普通以下になる傾向があるのではないかと想像したりします。また、こことCINの打者はホームでめちゃくちゃマイナスを出す傾向にあるのは何か理由があるのでしょうか。機会があれば調べてみますが、因果律的な理由にならないようにするのは非常に難しく感じます。

 以上の様に、なかなか面白い結果が出てきました。特に打者優位と言われる球場とはいえ、不運に近いというのはなかなか面白いのではないでしょうか。打者優位で点が取りやすいからと言って安打が出やすい訳ではない、ということですね。

[第12項:球場の影響]

 さて、では大まかにまとめてみます。結果的に、幸運になりやすい球場、なりにくい球場が存在することはわかりました。ただしそれは飛びぬけた個人の実力や、そもそもサンプル数の問題で全く変わってきてしまうことがあります。実際13年間程度のサンプル数では綺麗な形は出てきませんでした。このことから、確かに球場の影響はあるが、その影響は非常に限定的であるということが言えます。この影響と言うのがBABIPに対して最大でも±1分強程度でしかなく、最大で±7分以上動くBABIPに対してはせいぜい10%からどんなに大きく見積もっても20%程度の影響でしかないと考えられます。また、この球場の運不運に対しても不確定な要素が多く見られるので、今後より精査も求められることでしょう。さらに、球場の影響だけで、常に幸運な打者・不運な打者を見分けることが困難です。

 本章の結果より、幸運な打者だけを明確に見分けるのは困難だと考えられます。