Rayを釣りたくて III

フロリダ沖に降り注ぐ栄光の光の中で舞い踊るトビエイを釣り上げる事を望むブログ。スポーツナビ+閉鎖に伴ってIIIとなって引っ越しました。旧記事で画像がほしい記事があればコメントいただければ、気づき次第対応します。

牧田はMLBで通用するのか? ~NPB投手のMLB成績プロジェクションを目指して~ その1 導入+K/BB編

(目的/動機)

 久々にリクエストがあったので、やることにしました。ターゲットは西武ライオンズの牧田投手。久々に日本人の話題です。というのも。野球日本代表(なんたらジャパンって名前は好きじゃない)に選ばれた牧田がいい感じのスローボールを投げるというので、そういう投手ってMLBではどうなのかと聞かれたためです。

 が、正直そんなんはわかりません、と答えるしかありません。でもそれじゃあつまらないので、牧田の成績予想をする形で、そもそも日本人投手がMLBに行ったときにどういう成績を残せるのかを、過去の事例を基にして考えてみようと思います。

 ちなみに以前、鳥谷をターゲットに野手の方はやったことがあるのですが(リンク参照)、残念なことに鳥谷はMLBに移籍してくれませんでした。。。やったら面白いと思ったんだけどな。

 なお、この記事はとても長くなりそうなので、3本ほどに分けた連載形式を取ろうと思います。こちらも久々の連載ものです。

(方法)

 過去、MLBに移籍したNPBの投手たちのNPBでの成績とMLBでの成績を比較することで、牧田投手が今MLBに移籍したらどれくらいの成績が期待されるかを考えます。

 項目は投手の純粋な実力を示すと言われる奪三振率(K/9)、与四球率(BB/9)、三振と与四球の割合(K/BB)について考えます。併せて比較しやすいものとして被本塁打率(HR/9)と、計算が可能なもので、運を表す指標ともいえるLOB%(残塁率とでも…)について見比べます。

 さらに、投手のゴロ系/フライ系のNPBからMLB移籍時の変異を確認します。最終的にはxBABIPを計算しようと思います。ここについては次回の記事で細かく見ていくことにします。

 さて、本記事ではK/9、BB/9、K/BB、HR/9、LOB%について確認していきます。ターゲットはMLB移籍を境にして前後3年の合計投球回数がいずれも150イニングを超えている選手とします。150としたのはある程度のイニング数を確保したい一方、救援投手も多いので、年間50イニング×3年間で到達可能なイニング数であることを両立した結果の妥協点です。仮にMLBで1年や2年しかプレーしていなくても合計が150イニング超えていればそれはカウントに含める形とします。また前後3年の理由は、NPB通算だとどうしてもNPBでの成長過程なども入ってきてその時の実力をはかるにはイマイチであるのと、MLBでも年齢による劣化や逆に対応した結果などが入ってきてしまうと考えたからです。

 対象は岩隈・上原・田中・ダルビッシュ・前田・石井・伊良部・岡島・川上・黒田・斎藤・高橋尚成・野茂・長谷川・松坂・吉井の16名となりました。

 本記事では特にK/9の挙動とBB/9の挙動、それから導かれるK/BBの挙動を中心にみていくことになります。

(結果)

 一覧だと長いので、選手ごとに区切って示します。

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 また全選手の成績の平均も示します。

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(考察)

 結果を基に、NPBの投手の成績がどのような挙動をするかを確認してみます。個別に見ていくのでも良いのですが、まずは全体的に確認してみます。

 平均では渡米前8.20だったK/9は8.12と微減ではありますが、ほぼ変わらぬ数字と言えるでしょう。渡米前と比較して渡米後は99%程度の割合です。このことから、NPBの投手がMLBに移籍した場合、三振を奪う能力というのはほぼ維持されることが多いと言えるでしょう。

 一方で、与四球率の方は平均で2.46あったものが3.08と明らかに悪化しています。割合で見ると125.1%とBB/9以上に悪化しているのが見えてしまいます。完全に与四球に引っ張られた形で、K/BBも3.33から2.64と数字は悪化しています。割合で言うとNPB時代の79%まで下がってしまっています。

 これに解釈を与えることはいくらでも可能ではありますが、事実としてNPBの打者の方が同じ三振しながらも、四球を選べていないですし、それだけMLBの打者のレベルの高さが見えてきます。

 続いて個別に投手を見ていきましょう。それぞれを表と見比べるのはわかりにくいでしょうからこういうものを作ってみました。

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 縦軸が(MLB時代のBB/9)/(NPB時代のBB/9)、横軸が(MLB時代のK/9)/(NPB時代のK/9)となっていて、中央の線より上に行くほど与四球が増え、右に行くほど奪三振が増えたことを示しています。右上がりの線がK/BBが変化無しの線で、これより左上側がK/BBが悪化した人を、右下側が良化した人を表しています。この斜めの線との距離(垂線)が離れた選手ほど、K/BBの変化が大きいということですね。赤点は全員の平均を表しています。

 まずは赤い右下のブロック。与四球が減って奪三振が増えたという最高のパターンを描いた選手ですが、ここは野茂だけが含まれています。これはやはりパイオニアとしての凄みを感じますし、NPBが新たな市場として魅力的に映るのも納得します。

 続いてその上、黄色く塗られた三角形のブロック。ここはBB/9は上昇したものの、それ以上にK/9が上昇した結果、K/BBは良くなった選手たちです。明らかに外れ値の様に奪三振率を上昇させた斎藤隆をはじめ、長谷川・上原・前田・岩隈の5選手が含まれております。この選手たちには共通項は少ない様に見えますが、岩隈と1年目でしかない前田を除くとNPB時代は多くの時間を先発投手としてプレーしていたものの、MLBではリリーフに転向した投手たちが多く含まれています。やはり中継ぎになれば、強引に三振を奪いに行くシチュエーションになることも多いのを表しているのだと感じます。その中で、長いこと先発で起用されている岩隈はやはりすごい選手ですね。

 さらに見ていきましょう。その上側緑色のブロック。ここはK/9が上昇したものの、それ以上にBB/9が上昇した結果、K/BBが悪化してしまった選手たちですね。高橋尚成ダルビッシュの2名が含まれています。この中でダルは置いといて、高橋尚成は上原や長谷川の様に中継ぎに転向した結果、奪三振率が上昇したパターンの一つだと考えます。斜めの線との距離も近く、距離自体も上原らとも近いので同じようなグループの様にも見えます。

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 見えにくいでしょうから再掲します。

 次は左上。ここには6名の選手が含まれます。K/9もBB/9も悪化してしまったという最悪のパターンになってしまった人。全選手の平均もここに含まれます。

 この平均に近いところにいるのが黒田で、黒田はほとんど怪我なくMLBでのキャリアを過ごし、ローテーションを守り抜いたことで賞賛されるべきですが、実はその数値の変動はほぼ日本人の変化の平均付近にいます。逆に言うとローテーションを守りながら黒田くらいの実績を残すことは、怪我さえなければ、NPBのトップクラスの投手たちなら決して不可能なことではないとも言えるのではないでしょうか。石井一久もこの枠に入っています。彼は左右の差こそあれど、野茂と同じような荒れ球のスーパー奪三振系なイメージがある(というか実際にK/9とBB/9は高い)のですが、野茂と対照的な結果となっていて、元々NPBで三振が取れるからMLBでも良い訳ではないのがわかります。

 また、この青いエリアと緑のエリアを見ていて気になるのが上に突き抜けている3名で、ダル・川上・松坂は異様に与四球率が高くなってしまっています。理由はわかりませんが、非常に気になるところです。このメンバーだと特に剛腕みたいな感じでもないですし、これといった共通項が見いだせないのです。ですが、少なくとも一定の割合でこういう選手がいるのは事実で、そこはNPBの投手を見ていくうえで注意が必要なのだと感じます。

 そして左下、紫色の三角形にいる選手たち。ここはBB/9が改善したものの、それ以上にK/9が下がってしまった結果、K/BBが悪くなってしまった選手です。岡島と伊良部が含まれています。全体でわずか3名しかいない与四球率が改善された投手で、貴重な枠ですね。岡島は印象通りという感じですが、伊良部はむしろびっくりする感じですね。奪三振はともかく、与四球も減らしているとは思いませんでした。

 最後が黒い三角。ここはBB/9も減らし、K/9も減らしたが、結果的にK/BBが改善された人ですが、誰も属しませんでしたね。そもそもやはり与四球率が大きな問題な訳ですからね。見てわかる通り、半分の8名がK/9を向上させた一方で、BB/9を向上させたのはわずか3名ですし。

 総合的にみて、K/BBの改善をすることはそれなりに難易度が高く、BB/9を落とさないようにしながらK/9の向上を目指すことがより容易なことだと思われます。

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 こちらも再度確認します。K/9、BB/9とは違いますが、HR/9の変化と、LOB%の変化も確認してみましょう。まずHR/9については0.70→1.03と大幅な悪化が見られます。割合で言うと148.4%で実に1.5倍ものペースで本塁打が打たれることを示しています。単純にMLBの長打力を表しているかどうかはこれだけではわからないところです。例えばMLBではフライ系で、NPBだとゴロ系だった、みたいな投手が大多数だった場合、何も変わらない可能性もあるからです。ここは次回の記事で掘り下げてみます。

 そしてLOB%について。こちらは96%とごくわずかな悪化ですが、これはHR/9やBB/9が悪化したことに比べるとそこまで大幅な下げではないと考えられます。つまりはLOB%がいかに運に左右される(年度ごとの相関が小さい)指標であることの証左でもあると考えます。

 というところで今日は閉めましょう。

(まとめ)

NPBからMLBに移籍するとBB/9が悪化する一方、K/9はほぼ変化なし。

・BB/9をNPB時代から改善した選手はわずか3名。

・K/BBが改善した選手は6名。うち3名はNPBでは先発投手だったが、MLBでリリーフ転向。

・HR/9は全体的に極端に悪化。

LOB%も悪化しているが、極端な変化ではない。

・野茂つえぇ…。

(感想)

 いやぁやっぱ野茂ってスゲーわという感想が出てくる感じですね。全体的に変則投手は少なく(せいぜい岡島とか?)で目標となる牧田のプロジェクションはうまくいくのかどうか。

 とりあえず結果的には割と狙い通りのものが出てきたので、よしとすることにします。