Rayを釣りたくて III

フロリダ沖に降り注ぐ栄光の光の中で舞い踊るトビエイを釣り上げる事を望むブログ。スポーツナビ+閉鎖に伴ってIIIとなって引っ越しました。旧記事で画像がほしい記事があればコメントいただければ、気づき次第対応します。

【連載】フライボールレボリューションの損益分岐 ~価値の高いフライ~

 本記事は連載の中の1記事です。記事単体で読んでもわかるようにしてありますが、連載を通して読みたい方は、下記リンク先の目次から読んでいただければと思います。

http://www.plus-blog.sportsnavi.com/seriseri/article/283

(目的)

 現在流行中のフライボールレボリューション。基本的には大きなフライを打つことが良いこととされており、ゴロを打たない方が良いとされている。一方で、BABIPは依然としてGBの方がFBよりも高い。それでもなおFBの方が(本塁打を含めた)見返りが大きいことから、フライの方が良いという話につながっている。その中で、必ず障害となって表れるのがライナー性の当たりである。せっかくいい当たりを打ったにも関わらずライナーだと単打にしかならない、ちょっと芯を外した大きなフライの方が本塁打になる確率もあり、より美味しいという話さえもある。

 とはいえ、LDのBABIPは7割弱というとびぬけた数字である一方、FBでは13%程度にしかならない。その大幅な差を埋められるほど、FBに長打の可能性があり、LDには無いのかを調べる。

(方法)

 まずは2016年のFB、GB及びLDについての三点セット、Ave/OBP/SLGに加え、OPSを調べることで、実際の状況として、FBがLDに対してどれほどの価値かを調べる。

 続いて、この中のFBの打球のうち、HR/FBをいじることによって、どれだけのHR/FBを残せば、FBがLDを上回ることができるかを調べる。

 最後に2016年の打者の成績を調べ、得られたデータと比較する。

 なお、結果と考察は各項目について逐一行いながら進めていく。

(結果1)

GB .239/.239/.258 OPS.498

FB .241/.235/.715 OPS.950

LD .689/.679/.886 OPS1.565

※なお、Batted Ballの結果が残る02年以降の数字でこの傾向自体は変わらなかった。

(考察1)

 結果で出てきたように、GBはまず問題外として、LDとFBでは残したOPSに大きな開きがあった。LDは打率の高さが圧倒的であり、その結果としての出塁率の差も大きく出ている。一方で、FBはIsoの高さが光る。LDのIsoが.201であったのに対して、FBのIsoは.474である。LDがどうしても長打になりにくい一方、FBは打率が悪くても、それが長打になりやすいことがわかる。

 しかしながら、それでもリーグの傾向としてはLDの方がまだ高い長打率を残しており、FBよりもLDの方が得点に対してより価値が高いと言える。少なくとも、残せるBABIPがLDがFBに対して圧倒しており(これについては打者の力よりは守備力によりアウトセーフが決まってしまい、打者の実力は大きく影響できない)、これが大きな差となってしまっている。逆に本塁打についてはFBが圧倒しているものの、まだLDに届かないレベルであると言える。ただし、これはリーグ平均でしかない。HR/FBは打者によって大きく基準値が違い、パワーのある打者であれば、これを覆せるのかもしれない。リーグで平均的な打者ではまだまだLDの方が価値があると言えてしまう。

 なお、余談であるが、FBのBABIPは.127、一方でGBのBABIPは.239である。しかし打率はFBが.241、GBが.239とFBの方が高くなっている。これはMLBの平均的なパワーの持ち主では、本塁打分が加算されるため、ゴロを打つことよりもフライを打つ方が打率は高くなるのである。が、僅差であるので、犠牲フライを考慮に入れただけで、出塁率は再度ひっくりかえってしまう。

(結果2)

□01

 単純に本塁打以外の安打に対するBABIP、シングル、ダブル、トリプルの割合を固定し、HR/FBだけをいじって0%~40%まで0.01%刻みで試した。縦軸が想定されるOPS、横軸がHR/FBである。

(考察2)

 変数が1つ(HR/FBのみ)の単純な式ですので、面白くないですけれども単純な一直線の式になる。ちなみに相関係数は脅威の1.000(当たり前)、近似曲線の式はy=0.000473x+0.3551である(ただしHR/FBは割合で計算)。HR/FB0.01%はOPSを0.000473変動させる。

 この結果を受け、FBのOPSがLDのOPSのリーグ平均である1.565を超えるのはHR/FBが25.57~25.59%の辺りとなる。このことから、HR/FBをここまで上げることができる打者であれば、十分にLDとFBで得点に関する価値で渡り合える可能性がある。もちろんもっと上げればLDよりもFBが価値が上がる可能性が高い。逆に言うと、ここまでのパワーを得られない場合、まだまだLDを打つ方が可能性があるとも考えられる(最もLD打つ難易度もあるが…)。

(結果3)

□02

 唐突ではあるが、この散布図を示す。これは2016年の規定打席以上の打者のFBにおける安打のうち、二塁打三塁打の合計(グラウンド内の長打)の割合である。相関係数は-0.690となっており、それなりに強い負の相関が得られた。

□03

 これを上の想定される2B、3Bに代入し、わずかではあるが、精度を高めた。結果的に変数が増えたので、非常に緩やかではあるが曲線を描いた。

(考察3)

 割と大きなトピックとなる可能性を持つものを軽くぶち込んだが、FBの安打のうち、2B+3Bの割合はHR/FBが上がれば下がる。それもなんとなくではなく、ほぼ明確な意思を持った相関係数が出る。HR/FBが高いと大きく強いFBが多いから、必然的に二塁打三塁打が増える…のではなくむしろ減っていく。これをもう一つの変数として代入したところ、少しだけ結果が変化した。

 この場合、LDの平均的なOPSであった1.565をクリアするためには大体25.98~26.01%のHR/FBが必要になる。非常にわずかな差ではあるが、明確な差が発生した。

 なお、このグラフは上に突であり、例えばHR/FBが20%付近まではHR/FBが上がった方がOPSが延びやすいが、それ以降の伸びは鈍化する。HRが増えることよりも2B3Bが減る方が大きな影響が出ているのである。

(結果4)

□04

 上の結果を受け、2016年のMLB規定打席以上の打者のHR/FB、上位30名を表示する。

□05

 また、(LDのOPS)-(FBのOPS) と (HR/FB)の相関を確認した。

□06

 併せて、LDのOPS(縦軸)とFBのOPS(横軸)を散布図にした。

(考察5)

 先述したHR/FB25%~26%というのは非常に高いハードルである。昨年25%を超える打者はBraun、Khris Davis、Cruz、Chris Davis、Tomasの5名のみであった。彼らほどのパワーと技術を備えればLDを打つよりもFBを打った方が良い可能性がある。また、難易度は非常に高い一方で、決して不可能な壁とも言えず、ここでの結論としては「非常に高いパワーを備えた打者であれば」FBを意識して打った方がLDよりもなお、OPSが高くなりうるということになるだろう。

 また、5番目の図で示した通り、基本的にはHR/FBが上がればFBのOPSが上がるため、ここが上がると、LDのOPSとの差は縮まる(図の右上にシフトする)。この時の相関係数が0.789とそこそこ強い(ただしかなり恣意的に作った点があるので、直接的な相関ではない可能性が高い)。なお、昨年唯一LDのOPSよりもFBのOPSが高かった打者はJoey Vottoである(さすがデータ系のネタの宝庫だ)。彼のHR/FBはMLB10位の22.0%であり、やはりパワーがある打者であればあるほど、FBの価値が高まり、場合によってはLDを凌駕する可能性を秘めていることがわかる。

 逆に最もLDのOPSとFBのOPSの差が大きかった打者はEnder Inciarteで、その差は実に-1.147、彼のHR/FBはリーグワースト2位の2.5%でしかなかった。彼のような非力な打者に関してはむしろLDを打った方が得点により大きく寄与することができるだろう。

 なお、6番目の図を見ればわかる通り、LDのOPSとFBのOPSには明確な相関は無く(相関係数0.375:非常に弱い相関といえるか?)、また、FBのOPSが幅広く散っている(左右に広い散布)一方で、LDのOPSは固まっている(縦方向の散布が小さい)。これはLDよりもFBの方が、より個々人の能力を強く示す打球傾向と言えるだろう。

 そのため、価値の非常に高い打者というのは「FBのOPSがLDのOPSを凌駕するほどのパワーを発揮できる打者」と考えられ、逆に「非力な打者はひたすらLDを打つことで、一定以上のパワーヒッターと渡り合える可能性も示す」ことにもなるだろう。

(まとめ)

・基本的にLDの方がOPSが高い。平均的な打者であればLDを打つことを心掛けた方が得点への寄与は大きいと考えられる。

・でもGBは問題外。

・リーグでも有数のパワーヒッター、特にHR/FBが25%に迫る打者に関して言えば、FBのOPSがLDのOPSを上回る可能性がある。

・つまり、パワーヒッターであればFBを打った方がLDを打つよりも得点への寄与が大きい可能性がある。

・特に強くパワーを発揮できる打者は非常に価値が高くなるだろう。