Rayを釣りたくて III

フロリダ沖に降り注ぐ栄光の光の中で舞い踊るトビエイを釣り上げる事を望むブログ。スポーツナビ+閉鎖に伴ってIIIとなって引っ越しました。旧記事で画像がほしい記事があればコメントいただければ、気づき次第対応します。

【連載 第14回】打者の運と実力を探る 余談その2 投手の時代と運

 本稿は連載をしているひとつながりの記事ですが、余談ですので本文とは無関係でもあります。過去記事についてはリンク先からご確認ください。

[第一項:投手の時代]

 2010年くらいから、MLBは投手の時代と言われるようになりました。1試合当たりの得点力は大きく下がり、本塁打も減り、ノーヒットノーランが多く発生するようになりました。これについて異論がある人はいないでしょう。

 この投手の時代についての原因は様々なことが言われております。ストライクゾーンが広くなったとか、ステロイドをはじめとする薬物が規制されたからとか、実はコルクバット使っていた選手がステロイドと共に一掃されたからとか、新しい球場が割と投手よりだからなどなど。その中でもSABR系の考え方の普及とともに、BABIPの分母を少なくする投手=奪三振が多く、与四球が少ない投手がより有用だと考えられ(ある意味では証明され)、その結果として投手が三振を奪い、安打が生まれなくなり、得点数が減った、と言うものもあります。これはどうやら本当らしく思えます。それは事実リーグの奪三振率等を調べてみれば一目瞭然だからです。

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 ご覧のとおり、素晴らしく右肩上がりのグラフが描かれており、05年辺りと比較すると実に1近くも数値が上昇しているのです。たかが1かもしれませんが、年平均で1チーム辺り200近くものアウトを三振で奪うことにつながります。これが約3割のBABIPと1割のHR/FBの影響下から逃れられる訳で、74安打と20本塁打の減少と同義だと考えれば影響の大きさがわかるでしょうか。

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 同様にBB/9、与四球率も一時は急上昇しましたが09年を頂点に急降下しております。概ね四球を奪う打者が偉いとされた時期が過ぎ、四球を与えない投手が台頭してきた頃、そして投手の時代と一致する様なグラフの形です。05年は別の意味で注目なのですが、それはまた別の機会にしましょう。

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 実はHR/FB、フライのうち本塁打になっちゃう打球の率はほとんど変動が無く横ばいとなっています。つまりパワー面での上下動は思っているほど大きくは無いのです。

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 その結果、ERAは右肩下がりの数字を示していて、特に2010年から先は安定して低い値が出ています。これが投手の時代をよく表していると言えます。

[第二項:投手の時代のBABIP]

 投手の時代、つまり投手が実力で勝ち取った結果の時代ではあるのですが、その間の運の要素はどのようになったのでしょうか。運要素はこういった時代背景とは無関係な動きをするのか、あるいは運要素に影響される形で時代が動くのかは気になります。

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 BABIPを確認すると2006-09年と高止まりしていたBABIPが急落、それ以前の値に戻った形をしています。

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 一方、xBABIPを確認すると(08年を除くと)07-10年にかけて割と低い値が続き、2010年に底を打ち、その後11年12年13年と上昇傾向にありました。つまり打撃技術が相対的にはこの時期に上がっていたことを示しています。低いBABIPと比較するとやや矛盾した結果が得られています。

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 この表を見るとわかりやすいでしょう。打者のLuckを1分刻みにした度数分布表を年度ごとに重ねた物にさらにわかりやすく色を付けた物です。色は5名刻みで濃くしてあります。これからすると主力打者は09-10年まではむしろ以前と変わらぬ打撃技術を持っていること、そして11年を経由して12年13年とむしろ不運側にシフトしていることが分かります。02-03年くらいに同じような傾向の年があったこともわかります。

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 その結果、BABIPとxBABIPを重ね合わせるとこのような形になります。12年13年のBABIPとxBABIPの差=Luckが大きくなっていることが確認できます。

[第三項:つまり投手の時代とは]

 このことから、投手の時代とは何をしめしているのでしょうか。奪三振と与四球のバランスが取れた投手を求められていることは間違いありません。その一方で、打者も黙っている訳ではなく、打撃技術(xBABIP)を相対的に上げている=投手に対応しようとしていることもわかります。それでも三振数は増えているのですが、12-13年は上昇が抑えられています。また、HR/FBも多少上昇していて、パワー面での対応がなされている様にも見えます。

 それでも現実にはBABIPが低く抑えられていて、その上昇が表に見えていません。その結果、まだまだ投手が優位なリーグの様に見えています。今後はこの差が縮まる方向に進むのではないかと考えていて、ある時急に打者が逆襲に出ることがあるかもしれません(正確には出たように見えるかもしれない)。とはいえ、2014年ではこの傾向は加速していて、2015年は(シーズン中ですが)それを微妙に押し返しているように見えています。

 もちろん、奪三振率と与四球率がこれまでよりも投手寄りになっている以上、今までの様な得点力は望めませんが、多少の戻しはあるように感じます。

 以上、投手の時代に対する一考察でした。