PAP(投手酷使点:Pitcher Abuse Point)と翌年の登板
先日、広尾晃さんのブログ「野球の記録で話したい」においてPAP(投手酷使点:Pitcher Abuse Point)についての記事をアップしておられた。それについて個人的に調べてみたいと思った点がいくつかあったので、珍しく(?)NPBに照準を絞ってPAPと翌年の登板について調べてみました。
広尾氏の当該記事は以下のとおり
・藤浪晋太郎は“危険水域”|2015NPB
・パには赤信号の投手はなし|2015NPB
・MLB投手のPAPはこの程度である
PAPと言うのは先発投手の酷使度を表す指標で、MLBでは一時期盛んに使われた物です(最近下火な気がする)。計算式は非常に単純で以下のとおり。
PAP=(1試合の投球数-100)^3 ※ただし100球未満は一律0ポイント
これの累積ポイントが投手がどれほど酷使されているかを示すとされています。本来的には翌年の防御率との相関を観るためのものではありましたが、故障率との高い相関も指摘されています。また、基本的にはMLBで中四日で、100球を目途として、年間30-34登板位をすることを前提として考えられたものですので、そのまま中六日のNPBに持ち込むことへの批判もあります。ざっくり10万ポイントを超えると警告ライン、20万ポイントでいつ壊れてもおかしくないレベル、とされています。
今回はこれを用いて、NPBの各先発投手とその翌年の成績の傾向について考えてみたいと思います。対象としたのは直近三年、2011年、2012年、2013年の3年間で、それぞれの翌年の成績との比較を行いました。また、対象となる投手は当該年に規定投球回数をクリアした投手に限っています。
それではさっそく全投手の成績を見てみましょう。
□01 2013年
□02 2012年
□03 2011年
これだけではわかりませんので、少しいじります。登板数、先発数、投球回数、防御率について翌年との変化量にします。登板数、先発数、投球回数に関してはマイナスが翌年減少、プラスが翌年増加を、防御率に関してはマイナスが翌年悪化(数値としては高くなるが)、プラスが翌年良くなったものを示しています。感覚的にプラスマイナスをそのままとしています。
□04 2013年
□05 2012年
□06 2011年
それとなくの傾向はわかりますが、より分かりやすくするために3年度分をまとめて散布図にしてみます。
まずは先発数。
□07
続いて登板数
□08
そして投球回数
□09
最後に防御率
□10
さて、ではここから考察していきましょう。
まず、各グラフに近似曲線を示していますが、これを見るとPAPと翌年の成績には相関はほとんどないことが分かります。PAPが高くなれば高くなる程翌年すぐに怪我をしたり、極端に成績が悪化したりする訳ではないと言えます。
とはいえ、0を基準にしてみると、かなりの割合でマイナスの数値を示していることが分かります。登板数は11年→12年の涌井と中山が突出して増加していますが、これは彼らが翌年リリーフとして起用されたからです。
□11
登板数では6割超、先発数は7割弱、そして投球回数に至っては8割以上が前年度よりも悪い成績を残しているのです。防御率も4人に3人はマイナスです。
このことからPAPに関わらず、そもそも先発投手として一年間を過ごす時点で、翌年の成績の悪化は避けることが難しいと言えるのです。近年MLBでは前年度から30イニング以上投球回数を増やした投手も怪我するリスクが高くなると言われていますが、NPBでもそれに近いことが言えるのではないでしょうか。
また、相関が無いからと言って、酷使されていない、勤続疲労が蓄積していないことは否定できず、例えばダルビッシュや田中将大、あるいは和田と言ったNPBで長いこと先発投手をしていた選手がMLBで故障していることもそれを裏付けています。必ずしも翌年に反動が来るわけではなく、数年経ってから故障することもあり得る(むしろ正しいのかもしれない)のです。そのため、あくまでもPAPは目安でしかないものの、PAP(と言うよりも投手の酷使)は無視して良いものではないのです。また、極端な高PAPはそれだけリスクが高いと言えるでしょう。